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2018年12月26日21:18

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年末の東京美術館巡り(3)

山種美術館の後、Bunkamura ザ・ミュージアムに向かった。

「国立トレチャコフ美術館所蔵 ロマンティック ロシア」と題する展覧会を観た。

実は、国立トレチャコフ美術館には  ツアーで ロシアに行った時に 行っているが、たった1時間の見学時間では 観た気がしなかった。
とはいえ、ロシアという所に 一人で行ける場所ではない。

多分、もう二度と出かけない場所だ。

今回、この展覧会を観て、こんな風だったのか。と、思った。

この時代のロシアの文化は、チャイコフスキー、ムソルグスキーといった作曲家や、トルストイ、ドストエフスキーに代表される文豪は日本でよく知られていますが、美術の分野でも多くの才能を輩出しました。その美術界では19世紀後半にクラムスコイら若手画家によって組織された「移動派」グループが、制約の多い官製アカデミズムに反旗を翻し、ありのままの現実を正面から見据えて描くことをめざしていました。移動派の呼称は啓蒙的意図で美術展をロシア各地に移動巡回させたことによります。一方、モスクワ郊外アブラムツェヴォのマーモントフ邸に集まったクズネツォフ、レヴィタン、コローヴィンらの画家たちは、懐古的なロマンティシズムに溢れた作品を多く残しましたが、彼らと移動派には共に祖国に対する愛という共通点が見出せます。

ロマンティックなロシアと言うときの背景のひとつとなるのが広大な大地です。日本のような狭い島国の住人にとって、ロシアの圧倒的な広さは体験したことのない未知の世界でもあります。

たとえばシーシキンの《正午、モスクワ郊外》に描かれた地平線まで続く道は、そんなロシアならではの雄大なロマンを感じさせます。雪景色にもまた北国のロマンがあふれています。バクシェーエフの《樹氷》は、真っ白な樹氷が青空に冴え、透き通った大気を感じさせる華やかな作品です。またアイヴァゾフスキーらの描く海景画も、同様の大きな空間の広がりとして展覧会のアクセントとなっています。

日本の国土よりも広くどこまでも深い森もまた、私たちの知らない心惹かれる世界です。

雨傘をさして森の中を歩くカップルを描いたシーシキンの名作《雨の樫林》は、映画のワンシーンを見ているようです。この画家には樫の木を単独で描いた作品もあり、それは人物の肖像画のような風格を湛えています。森は季節の移り変わりとともに様々な容貌を見せます。そこには熊たちが棲む場所もあり、本展にはそれを描いたシーシキンの大作《松林の朝》の油彩習作が出品され、情景の雰囲気が伝わってきます。


自然だけでなく、ロシアの都会での暮らしにもさまざまな物語があります。

コローヴィンの描く《小舟にて》には、雑踏を逃れて二人の時間を過ごすカップルの様子が描かれていますが、何が起きているか、つまり愛を語っているのか別れの瀬戸際なのかは想像するしかないものの、緊張感溢れる画面からはドラマが展開していることが伝わってきます。そして暮らしの舞台となる都市そのものにも目をやると、伝統的な建築で彩られた都市風景には、グリツェンコの《イワン大帝の鐘楼からのモスクワの眺望》のように、日本人にとって遠い異国の情景としての魅力に溢れるものが多数あることがわかります。
なお、本展には名作《忘れえぬ女ひと》の作者で、モスクワで活躍した画家クラムスコイのレーピンによる肖像も出品されます.

ロシアにはダーチャと呼ばれる菜園付きのセカンドハウスがあります。

都会から1時間程度で行くことができる場所にあり、必ずしも豪華な邸宅である必要はなく、多くの市民は週末に利用し、老後を自然の中で過ごすための場としても使われます。そこでの暮らしはロシア人にはくつろぎのひと時で、彼らなりのロマンティックな時間の過ごし方であり、肩の荷を下ろして愛する人や家族と静かに過ごすことのできる幸福のひと時なのです。本展ではマコフスキーの《ジャム作り》のような心和む作品などが出品されています。そしてその庭や野で摘まれるような花の静物画も、ここに加えました。

ロシアの風景を描いた作品とは別に、私たちをロマンティックな世界に誘う女性像。

中でもクラムスコイの名作《忘れえぬ女ひと》は、過去に何度か来日しているにもかかわらず毎回待望感がある花形作品です(前回は約10年前)。文豪が綴る世界を一枚の絵画の中に凝縮したようなこの作品のモデルは、トルストイの小説『アンナ・カレーニナ』とも言われ、地位や階級を超えた文学的ロマンティシズムを画家が視覚的にとらえた傑作と言えましょう。また大画面に描かれた同画家による《月明かりの夜》は、夜の古い庭園で物思いにふける白いドレスの麗人を叙情的に描いたもので、この画家の世界をさらに深く堪能できる魅力溢れる作品となっています。

子どもを描いた作品がロマンティックというカテゴリーに入るかどうかは意見が分かれるところかもしませんが、子どもの世界に心の安らぎを覚え、特別な思いを寄せる人も多いのではないでしょうか。

本展にはそんな子どもたちの様子を身近な生活の中に描き出した秀作が充実しています。可愛らしい子どもたちの絵の中で、例えばコマロフの描く《ワーリャ・ホダセーヴィチの肖像》に登場する幼い少女の姿は、子どもの世界にも奥深い内面的なものがあることを証明しています。同様にヴィノグラードフの《家で》と題された作品では少女が広い室内で独りたたずむ姿が描かれ、何かの物語の始まりを予感させる重厚な作品となっています。他にも、子どもたちが遊ぶ様子を描いた作品も何点か出品され、童心に帰る児童文学コーナーさながらとなっています。

夢想へと誘う―
イワン・クラムスコイ 《月明かりの夜》
《忘れえぬ女ひと》の作者クラムスコイの作品《月明かりの夜》は、かつて夕方から夜にかけて戸外で演奏された夜想曲にたとえることができます。この作品は夜想曲のように、見る者の心を高揚させ、思い出を甦らせ、夢想へと誘います。

白いドレスを纏った孤独な若い女性が、古い庭園で老樹の傍らのベンチに腰掛けています。彼女の姿は、月夜の詩情、その静けさや神秘と調和し、一体化しています。彼女は誰かを待っているのか、あるいはただ物思いや回想に耽っているのでしょうか―。彼女がこの問いに答えることは永遠にありません。つまりこの作品のイメージを創造した画家にとって、また鑑賞者にとって、彼女は、人間の心の中にあり、時には自然界にも現れる語り尽くされないものとして、空想、夢、詩の化身であり続けるからなのです。

「月明かりの夜」は、とても美しかった!! この絵を観るだけでも この展覧会を観に行った甲斐があるような気がした。

私は ロシアの画家については全く知らなかったが、見応えのある展覧会で良かった。



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