mixiユーザー(id:28433789)

2017年05月03日21:47

308 view

◆巨額損失を繰り返す日本企業の海外買収に「盲点」はないか

◆ 巨額損失を繰り返す日本企業の海外買収に「盲点」はないか

【ダイヤモンドオンライン】 05/02
真壁昭夫:法政大学大学院教授+




 日本を代表する企業が、買収した海外子会社の減損処理により多額の損失を計上する事態が続いている。

潤沢な手元資金を抱える中、多くの企業は市場の開拓やシェアの拡大などを重視して海外企業を買収し事業拡張を目指してきた。

だが日本郵政に関しても、「初めから危ない選択だった」との見方を持つ専門家もいたようだ。

これまでも「高値買い」や買収したあとには期待されたほどの成果が上がっていないケースも目立っている。

今後、日本企業は海外企業の買収戦略をどう進めるべきか、考察してみたい。





● 海外企業買収額10兆円、過去最高  度重なる海外子会社の減損処理


 経営学の理論では、企業の合併・買収(M&A)には、規模の経済効果の追求、成長のためにかかる時間の節約、コスト削減などのシナジー効果の発揮などのメリットがある。

要は、事業を自前で立ち上げる時間を買うということになる。



 そうした戦略の下、日本企業の多くはM&Aの効果を重視し、国内だけでなく海外の企業を傘下に収めて“グローバル企業”の仲間入りを果たそうとしてきた。

2016年度、日本企業による海外企業の買収額は10兆円を超え、過去最高を記録した。



 ただ、これまでに実行されてきた比較的規模の大きい海外での買収案件のヒストリーを振り返ると、必ずしも成功例ばかりではない。

最近では、多額の減損を計上するなど失敗例も目立つ。



 2000年代の初頭、NTTドコモは「ITバブル」の熱気に浸り、オランダ、英国、米国で大規模な買収戦略を敢行した。

特に米国のAT&Tワイヤレスに対しては1兆2000億円もの資金をつぎ込み、結果的には失敗した。

その後も、NTTドコモはインドの通信会社に投資を行ったが、これも想定通りの効果を上げるには至らなかった。



 他にも、野村證券(野村ホールディングス)によるリーマンブラザーズの欧州・アジア部門の買収、第一三共によるインドの後発医薬品大手、ランバクシー・ラボラトリーズの買収など、必ずしも期待された成果をあげられていない例は多い。



 日本郵政に関しても、オーストラリアの物流子会社であるトール・ホールディングスを買収した2015年というタイミング、6200億円という規模を踏まえると、世界経済の状況や為替レートの水準を冷静に考え、より適切なタイミング、買収価格などの条件を冷静に検証すべきだったといえるだろう。



 買収戦略の失敗から債務超過に陥り、分社化を余儀なくされた東芝のケースを見ると、海外での買収戦略の失敗は企業の屋台骨を揺るがすマグニチュードをもたらす。

そのリスクは軽視できない。





● 国内市場の縮小と金余りが企業を海外に向かわせる


 なぜ、日本企業による海外企業の買収が急増してきたのか。

この背景には2つの問題がある。

まず、国内の経済全体を見渡した時、更なるイノベーションを進め、成長力を引き上げられる余地は限られている。



 トヨタ自動車のように新しいコンセプトや技術を実用化して、需要を創造できる企業はある。

それでも海外の需要を取り込むことは不可欠だ。

成長のために取りうる選択肢を突き詰めていくと、海外でのM&Aを進めることは外せないのである。



 加えて、日本の企業は約375兆円もの利益剰余金を内部に留保している。

いわゆる“カネ余り”だ。

経営者としては、この潤沢な手元資金を活用して事業を発展させなければ資質を問われかねない。

キャッシュリッチな経営を続けていると、経営資源を有効に活用できていないと株主から責められる可能性も十分にある。



 こう考えると、海外の買収戦略を重視することは、国内市場の縮小による経営の手詰まり感を払拭し、成長志向の経営を進めるためには不可欠なことといえる。

企業が直面する状況を考えると、海外に活路を見出し、経営資源を少しでも有効に活用して成長を目指したいというのが、多くの経営者の偽らざる本音であり野心だろう。



 ともすると守りの経営に向かいやすい中、海外での買収が成功し、企業価値を高めることができれば“名経営者”の評価を得ることもできる。

こうした経済環境で各企業が現状を打破するために海外市場を重視し、M&Aを重視することは今後も続くだろう。





● 想定される以上に高いリスク  マネージメントの経験も不足


 ただ、日本郵政などの損失発生を見ると、海外企業の買収に伴うリスクはかなり高いと言わざるを得ない。

経営者の立場に立った場合、買収の規模、タイミング、条件などに関する最適な解を見出すのは、口で言うほど容易ではない筈だ。



 まず、今日の世界経済は、めまぐるしいスピードで変化している。

米国での「トランプ大統領の誕生」に象徴されるように専門家すら予想していなかった展開が実際に発生し、それを機に金融市場や経済状況は急速に変化してきた。



 特に、為替レートの影響は大きい。



 その中で、当初の想定通りに海外企業の買収がシナジー効果の獲得などにつながるか否か、不確実性があることは忘れるべきではない。

環境変化のスピードに対応することができないと、M&A後の成長戦略を実行することは難しいかもしれない。



 次に、日本の企業は、語学をはじめ異なる文化、価値観を持つ人材をマネジメントすることに十分な経験を持ち合わせていないと考えられる。

限界に直面しつつも、年功序列・終身雇用を重視する企業は多い。



 これは、海外の常識である“競争原理”とは異なる発想だ。

経営者も、プロの経営者よりも、新卒採用者の中から選抜されたゼネラリスト型が多い。

わが国の企業経営の中で、海外の企業買収を行うために必要な資質が経営者に備わっているか否かは、冷静に確認する必要がありそうだ。





● リスクに合わせてリターンをとる発想が大事


 一つの解決策として考えられるのは、企業統治=コーポレートガバナンスの機能を発揮していくことだ。

経営者は、より高い収益や成功への野心に突き動かされて、海外での買収戦略を進めようとする筈だ。

その時、買収に付随するリスクを第三者の視点から客観的かつ冷静に見直すことが欠かせない。



 これがコーポレートガバナンスの目的だ。

海外買収に関連するリスクに対応できるだけのガバナンス体制を整備できているか、見直す意義は大きい。

世界経済や企業買収の専門家を登用してマクロ、ミクロの両面からリスク要因の見落としがないかを精査するなど、踏み込んだ取り組みが必要だろう。



 別の視点から、わが国企業による海外企業の買収を論じると、“リスクに合わせたリターンを確保する”発想が弱いように思う。

過去の買収の失敗は、過度なリスクを取り、企業がそれに耐えられなくなったことに他ならない。



 東芝は契約相手に権利を与え、求めに応じる義務を負うという“オプション契約”が何であるかを、十分に理解していなかった。

東芝はウエスチングハウスを買収した際、パートナーの米国企業にウエスチングハウス株を特定の価格で売る権利(プットオプション)を与えた。

それに加え、電力会社が原発企業に工事遅延などのリスクを負わせる“固定価格オプション契約”のリスクも十分には認識できていなかったようだ。

それが7000億円もの損失の原因になった。



 また、日本郵政が買収して2年程度で日本郵政が減損処理に迫られたことは、買収に関するデューデリジェンスが不十分だったといわざるを得ない。

両社とも、オプション契約のリスク、事業環境に関する認識が甘く、潜在的なリスクを把握しきれていなかったといえる。



 一方で成功例があることも確かだ。

日本電産は比較的規模の小さい海外企業を買収して成長を遂げてきた。

そこには、買収後の組織の融合が可能と考えられる企業しか買収しないという徹底した方針があるのだろう。



 ソフトバンクは買収に加え、出資というアプローチで海外企業の成長を取り込んできた。

その代表例が中国のアリババだ。

ソフトバンクは昨年6月にアリババへの出資比率を32%程度から27%まで引き下げ、税引き前で2500億円程度の売却益を確保した。



 言語、商習慣が異なる企業を買収し、完全に自社の一部門として統率することは容易ではない。

本当に買収するメリットがあるか、見落としたリスクがないかだけでなく、リスクを抑えてより大きなリターンを得る方法はないか、各企業にとって海外買収戦略のあり方を見直す意義は大きいように思う。

(法政大学大学院教授 真壁昭夫)



【関連記事】
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1960058029&owner_id=28433789
日本郵政4000億損失、元凶はまたも元東芝・西室泰三氏




      ◇◇◇

真壁昭夫
法政大学大学院教授

1953年神奈川県生まれ。
一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。
ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。
みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
著書は「下流にならない生き方」「行動ファイナンスの実践」「はじめての金融工学」など多数。


今週のキーワード 真壁昭夫
経済・ビジネス・社会現象・・・・・・。
今世の中で話題となっているトピックス、注目すべきイノベーションなどに対して、「キーワード」という視点で解説していきます。
▲バックナンバー一覧 http://diamond.jp/category/s-keywords
0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する