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2019年09月22日11:01

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映画「誰かの妻」

アジアフォーカス福岡国際映画祭で鑑賞。ディルマワン・ハッタ監督。

舞台はインドネシアのカンゲアン島。グーグルマップで探すと、バリ島の真北、ジャワ島の東にあり、どちらの島からも100~200kmは離れている離島だ。

 エンダは、母の墓を訪れ、独白する。母の死後、自分の味方は一人もいなくなってしまった。この島では女は男の所有物でしかない。自分の生きたいようには生きることはできない。
 高校の同級生は「早く結婚したい」というが、エンダは、父親から押し付けられることがわかっている結婚に憧れはない。
 エンダを慕う男がいたが、エンダの父が金持ちの息子との縁談を進めていることを知り、島を出て行く。島には仕事がなく、男たちは仕事を求めてマレーシアに行くのが常だった。
 親の決めた金持ちの農家の息子とエンダの豪勢な婚礼の式が行われる。式が終わり、夫はエンダに自分もこの結婚にはまったく気乗りがしなかったが、親が決めたから仕方がなかったと打ち明け、ある日、エンダを置いてマレーシアに行ってしまう。離婚するわけでもなく、婚家に一人残されたエンダは、老いた義父の監視のもとに自由のない日々を送る。
 ヤシの枯れた花茎を拾い集めて額縁を作っていたエンダは、高校に招かれて生徒に教えることを頼まれる。エンダにとっては、義父の監視を逃れて外の空気を吸い、一人になれる貴重な時間だった。
 乾ききったこの島では、家畜に飲ませるための水を水売りから買っていた。村の農家に水を売りに来る青年が、エンダに目を止める。初めは無視していたエンダも次第にその青年との出会いを楽しみにするようになり、初めて「恋」といえる感情を持つ。
 しかし、やはり地域のしがらみから逃れることは容易ではなかった。「いったいあなたはどうしたいの?私は人妻なのよ。愛人の地位でいるつもり?」
 この地にとどまる限り、自由はない。彼は島を出て行く決心をする。同じ日、エンダは荷物をまとめ、こっそりと家を出た。船着き場のある町に向かう乗り合いトラックがやってくる。青年は先に車に乗り、あとからやってきたエンダに手を差し伸べる。「乗るんだろう、荷物を渡して」。そこで、彼女は首を振る。「私は行かない。一人で行って」。
 そこで、青年は諦めてドライバーに「車を出して」と言う。彼の乗り込んだトラックはエンダを残して走り去っていく。


 父親、最初の男(初恋の人ということになっているが、エンダが彼を好きだったようには見えない)、夫、義父、そして最後に現れた「恋人」。

 この映画は、監督がカンゲアン諸島の人々を集めてワークショップを行い、その中で島の人たちの意見を取り入れてストーリーを組み立てていった。島の人々が実際に感じていることが描かれており、「女は男の所有物」というのも、その中で参加者から出てきた言葉なのだという。
 「カンゲアン諸島の特徴とは?」と聞かれて、「カンゲアンの特徴というのは、カンゲアンに行くのは、カンゲアンの人たちだけだということです」と答えられた。外から新しい価値観が入ってくることもなく、古い因習がそのまま残り、若い男たちは島を出てしまい、女性たちは鬱屈した思いを抱えて暮らしている。島の人の共通体験がひとりの女性主人公に投影され、彼女を取り巻く男たちもシンボルとしての役割を持っているのだ。
 
 最後のシーンは、あまりにも救いがないように見える。せっかく束縛された生活から抜け出すチャンスだったのに、それを捨ててしまったのだから。

 しかし、この点について質問した人があり、「一見、アンチハッピーエンドだが、今まで人生のすべてを他人に決められてきたエンダが、唯一、誰に言われたのでもなく自分で下した決定であるという点で、肯定的に捉えることができると思うが」というと、監督もそうなんだと答えていた。

 たしかに、男がマレーシアに行くというのに「ついていく」というのでは、やはり受動的な決定にすぎない。「男の敷いたレール」には乗らない、という意思表示をしたことが、彼女の中での「新たな一歩」であると捉えられるということなのだろう。村に戻っても、それまでの彼女ではないのだ、と希望的に捉えることもできるかも。

 また、ワークショップの成果であることを考えると、彼女も島を出て行くという結末では、現実に島に住み続ける人にとっては絵空事に終わってしまう。むしろ、このように描かれたことで、島の男たちに「このままでいいのか」と問いかけることができるだろうし、島の女性たちにも「私だったらこうする」という異論を喚起するきっかけになるのかもしれない。
 主人公の高校時代のシーンを除くと、女性同士が交流するシーンがほぼない。現実の島の生活には女性同士が楽しく会話する場面などいくらでもあるのだと思うが、あえてそれを排して、女性の自由のなさを映像化したのだと思われる。印象的な映画でした。
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