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2020年04月30日21:19

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カネマラ追加!・・・そして、あの日のこと

2011年3月17日の夜

(扉を開ける音)
-あ、いらっしゃい
-・・・あ、すみません。ひとり、ですけど・・・
-どうぞどうぞ、今日はひとりもお客さんいないんで。好きなとこ、どうぞ。
-じゃ、カウンター・・・ここで、いいです?
-どうぞ・・・で、何になさいます?
-まず、ビールで・・国産以外では、何が?
-うちは、バス・ペール・エールですね。それでいいです?
-はい、それで・・・うん・・・初めて飲むけれど・・・どこの国なんですか?
-イギリスですね、向こうでは結構一般的で。
-へえ、そうなんだ・・・

(ジャズベースの深い音)

-次、何になさいます?
-あのですね・・・ハイボールを・・・それで、できたら、シングルモルトで
-何かお好みは?
-・・・うーん、あの・・・失礼でなければ・・・マスターがハイボールにするならこれって思うのを教えてもらえたら。
-かしこまりまた。でも、なんで失礼でなければ、なんて仰るんです?
-バーに来るのは、すごい久しぶりなんですよ。実は、前に一度、ひどくバーテンダーの方にからかわれたっていうか、とんでもないもの飲まされたことがあって・・・まあ、こっちの態度が悪かったのかもしれないですけど。そんなことがあってから、足が向かなくなって。
-そうですか・・・そういうバーテン、私、大嫌いですね。ダメですよ、そういうことやっちゃいけない。ほんとに。
-いや、僕が悪かったんだと思いますよ。生意気なこと言ったんでしょう。でも、ホントはバーに通いたかったんですよ。酒のこと、色々知りたかった。それで、今日は思い切って・・・・後悔しないように、って。
-そうですか、じゃあ・・・・これはいかがです? クライヌリッシュのシェリーフィニッシュ、って奴ですけど。
-クライヌリッシュ?
-そう、ハイランドでもずっと北の方、海岸に近いところの蒸留所です。いわゆるハイランド、というイメージからは離れた、しっかりした味わいとかすかなピート感があって・・・シェリーフィニッシュっていうのは、一旦樽から出して、もう一回シェリー樽に詰めて寝かしたってやつです。ハイボールにしたら、すごく香り立つと思いますよ。
-いただきます・・・うん、本当、香りがいい。それに、すっごく甘いですね。
-お気に召しました?
-気に入ったなんて・・・そんなもんじゃないですよ・・・なんか・・・なんていうか・・・うん・・そうだよ・・・もっと早く、我慢なんかしないで、したいことをするべきだったんだ・・・
-・・・・・

(ピアノ・トリオの音)

-クライヌリッシュ・・・でしたね
-ええ
-ありがとうございます、憶えておきます・・・もう一杯、違ったものをいただけます?
-じゃあ、これは・・・・カネマラっていう、アイリッシュウイスキーなんですけど、そのなかでは変わってて・・ハイボールにはきっと合うと思いますよ。
-・・・これは、さっきとは、全然違う・・・匂いが・・・
-そう、ピートが効いてるんですけど、でもそれだけじゃない香りがたつというか・・・
-・・・美味しいです、本当に・・・本当に・・・・草の匂いがする・・違います?
-ええ、そうですね。
-こんなウイスキーがあるなんて・・・

****************************

あれから9年が経ち、日本は危機を越え、雇われマスターだったマスターは自分の店をもち、僕は何回も再訪し・・なのに、それなのに、今、僕はそこに行くことができない。

だからというわけではないかもしれないけれど、また訪れることができるまでの間、クライヌリッシュとカネマラを自分のfavorite maltの列に加えて、思い出に浸ろう。

http://bar-islay.com/

マスター、きっとあと少しで、お会いできますよね。また、「こんなのがあるんですよ」って、見たこともないボトルを手に、にたって笑ってください。

それまで、負けないでください、絶対に。

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