●「ドラゴンフライ」 河合莞爾著 角川書店 13年版 1600円
本書は、「タンデライオン」の1年前の事件を扱っている。主人公は、警視庁捜査一課の鏑木班の4名。鏑木、正木、姫野、それに科学警察研究所のプロファイリングの澤田である。
多摩川河川敷に、喉から下腹にかけて一直線に腹を割かれ、腹部の内臓がすっかり抜かれ、しかもその後で全身にガソリンをかけて焼かれた死体があがった。猟奇殺人である。死体の下から、トンボの彫金のネックレスが見つかった。不可解なことに、犯人が死体の姿勢をきれいに整えた形跡があった。
本書のテーマは「ドラゴンフライ」、つまり英語でトンボである。トンボは、欧米では縁起の悪い虫とされているのだ。
4人は、トンボのネックレスを作ったという女性を訪ねて群馬県にやってきた。女性は、そのネックレスを贈った人物と贈られた人物を知っていた。贈ったのは27歳の全盲の泉美で、贈られたのは泉美の幼馴染の遊介・30歳であった。
丁度その頃、群馬県警に告発文が届けられた。そこには、�〃嫁聾�飛龍村（ダム建設中で、暫くすると水没する村）の田沼村長は、熊林建設のスパイで、田沼は同社の依頼でダム反対派を扇動（田沼は、ダム反対で村長選に勝利）してダム建設を長期化させ、20年間にわたって同社の利益を誘導（当初予算400億円台が800億円台に）、最終的にダム建設を実現させた。��田沼は、事前にダム建設位置の変更情報を同社から入手し、村有地を巧妙に私物化して、約15億円の水没補償金を騙し取った。�Ｅ直造�20年前の飛龍村で起こった水澤夫妻（泉美の両親）殺害の犯人である、とあった。
ということで、飛龍村でのダム建設を巡る汚職問題と時効となった殺人事件が、多摩川河川敷の殺人事件と結び付いたのだ。
そんななか姫野は、人間だけが欲望のために仲間を殺すこと。怨みとか憎しみが仲間を殺す引鉄になること。そんな感情は、他の生き物にはないこと。仲間を殺す、これはあらゆる生き物にとって種の存続に反するタブーであること。でも現生人類（ホモ・サピエンス）はこのタブーを自ら捨てたこと。他の人類（ホモ・ハピリス、ホモ・ネアンデルターレンス等30種以上）との生存競争に勝ちたいという欲望の果てに。
だから現生人類だけが生き残り（他の人類は１万2000年前に絶滅）、繁栄を独占することができたこと。そして、「人間はこわれた哀れな生き物なんだ。だから人を殺してしまうんだって考えれば、誰も怨まなくて済む」というのであった。やがて姫野が、11歳の時に警備員だった父親を殺されていた（「タンデライオン」で描写）ことが、明らかにされていくのであった。
本書では、トンボの蘊蓄が随所で語られる。そこも本書の読みどころでありました。
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