●「陰陽師ーー女蛇ノ巻」 夢枕獏著 文芸春秋 19年版 1450円
陰陽師の安倍晴明と貴族の源博雅が、春夏秋冬を2度くりかえして12章の物語を収めた本。安倍晴明が、なまざまな怪異を解決する物語だが、本書には自然(じねん)のままに生きていることの喜びを称える本となっている。
最終章の「蝉丸」では、盲目の琵琶法師蝉丸が、琵琶を弾かなくなって久しいこと。それは、あるがままの自然ーー風の音、月の光、石や樹や葉の音、心音などなどーーが蝉丸には光として感じられ、至福の音楽となっていること。だから、自分で琵琶を弾く必要を感じなくなっていたからであった。それでもある日、自然の音を聞きながら琵琶を取り出し合奏をしていると、それを聴きつけた博雅が笛(「葉二」という名器)を取り出し合奏に参加するという、自然の音楽に恍惚とする物語。
じつに見事な音楽の描写に、読む者をも恍惚とさせる物語でありました。
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