mixiユーザー(id:2810648)

2019年06月17日09:49

101 view

読書紹介1828●「トロイメライ」

●「トロイメライ」 池上永一著 角川書店 10年版 1500円
 幕末の、沖縄は那覇を舞台にした小説。主人公は、文盲(後に勉強して読めるようになる)だが三線(さんしん)の天才である武太。武太は、那覇の涅槃院の住職で元官僚の大貫長老の斡旋で、筑佐事(最下級の警察官)となる。
 この大貫長老は世事に長けていて、元寺社座の奉行だった。それなのに涅槃院は、ごろつきの温床となるほど自由奔放な寺で、境内には犯罪者やその予備軍も混じっている所であった。大貫長老は、王宮の官僚を含めてあらゆる人の「人の弱み」を握っていて、それをもとに人々の世話をしていたのだ。
 そんな大恩ある大貫長老に対して、筑佐事となった武太は手柄をあげようとして、捜査の手を涅槃院に広げたのだ。そんな武太を、大貫長老は持っていた大煙管で叩きのめすのであった。ということで本書では、そんな沖縄人らしい「おおらか」(いい加減)な人間関係が描かれていく。
 第6夜「唄の浜」では、武太たちが子供の頃に可愛がってくれたサチオバァが、病気で伏せっていた。武太たちがオバァを見舞うが、翌日、オバァは亡くなってしまう。オバァを埋葬しようとした武太は、オバァの墓がないことを知らされる。調べてみると、戸籍が改竄されていたのだ。オバァは、嫁ぎ先の夫が妾に子が出来た時に、婚家を追い出されたのだ。離婚はしていなかったので、戸籍はそのままのハズが、知らないうちに嫁家から外されていたのだ。
 こうして、沖縄の墓の事情やその所有権(慣習法)のことなどが描かれる。やむなくガマ(洞窟)に埋葬されることとなったサチオバァ。その葬列には、町中の人が長蛇の列をつくることに。サチオバァが、町の人々に尽くしてきた生き方が思い出されたからだった。
 琉球王国は武装解除され帯刀を許されなかったなどの、幕末の沖縄事情にも触れた、胸が温まる小説でした。


2 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2019年06月>
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30