幼年期、青年期、壮年期、老年期というように、どの文明や国家、経済なども、人の一生と同様の道筋をたどるのだろうか。
驚異的な戦後復興と高度経済成長から、バブル崩壊とその後の経済停滞、財政悪化へと至る戦後の日本経済の歩みを、本書は67の主要なエピソードとともに振り返る。財閥解体やIMF·世銀加盟等の「挑戦」、所得倍増計画や東京五輪等の「躍進」、日本列島改造論や石油危機等の「変革」、プラザ合意や日米半導体協定等の「摩擦」、ブラックマンデーや拓銀破綻等の「暗転」。それぞれの時代、それぞれのトピック毎に、限られた紙面ではあるが、その出来事に携わった人たちの肉声を引用することで、『プロジェクトX』のように、彼らの思いや息づかいをリアルに感じられる。「ビデオ戦争」では、敗れたソニーの幹部が松下電気の幹部にしみじみと語りかけた「あのころは、お互いに青春でしたね」という後日談が、「田園都市国家構想」では、研究会で各省の官僚にも自由に発想させ、「わたしの世代にこの事業が完成しなくとも、次の世代が力強く引き継いでくれるから」とぼそっと話す大平首相の姿が印象的だった。
隔世の感があったのは、日米関係だ。アメリカの市場を席巻する日本の自動車や半導体、ソニーによるコロンビア買収といったジャパンマネーの拡大。日本はアメリカの脅威となり、激しい貿易摩擦をもたらした。今は日米は蜜月関係にあり、代わりに米中の間が「新冷戦」と言われるまで冷え込んでいるが、それは単に、日本が「敵」としての力がなくなっただけではないかとも思えてくる。半導体や電機、太陽光発電等の凋落により、今や日本経済は自動車産業一本足で、それさえも電気自動車の波に直面している。
老年期を迎えた経済はその後どうなってゆくのか。日の名残り、残照の中を静かに生きていくのか、それとも、復活して再度のサイクルを経ていくのか。後者が望ましいが、公害など負の側面ももたらした闇雲な経済成長ではなく、環境や財政等の面で持続可能な、調和ある成長が不可欠である。
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