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2022年01月08日20:00

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本棚452『ヨーロッパ史入門 原形から近代への胎動』池上俊一(岩波ジュニア新書)

 言語や宗教、文化といった共通性の下、多様性も内包する「ヨーロッパ」の歴史を概観する。2分冊となっていて、本書は古代ギリシャから絶対王政期の17世紀末までを扱っている。
 世界史の教科書のように、基本的なポイントは押さえつつ、独自の視点が随所に織り交ぜられている。ヨーロッパの形成のための四つの構成要素として、「キリスト教の霊性」、「ギリシャ・ローマの理知」、「ゲルマンの習俗」、「ケルトの夢想」を挙げたり、フィレンツェを中心とする「ルネサンス」を特権視せずに、中世に何度もあった小ぶりの「ルネサンス」の最後の燃え残りとする見方を示したり、斬新な視点が興味深かった。

 ヨーロッパはその長い歴史の中で常にヨーロッパ人とそうでない者を区別してきた、という指摘も印象的だった。ローマでは異民族を「バルバロイ(わけのわからない言語を話す者たち)」と呼び、「他者」と見なしてきた。その後の、イスラーム世界に対する十字軍の派遣やキリスト教内部での異端の弾圧、近世の魔女狩り、新大陸での過酷な植民地支配など、いずれも「自身」に対する「他者」の意識を発端とするものだろう。
 
 近世までのヨーロッパの歴史を辿ってみて感じるのは、やはり争いの多さのように思う。それも本書で多くの紙幅を割いている宗教を巡る対立が多い。キリスト教は「汝の隣人を愛せよ」と謳い、博愛を旨とするはずであるのに、なぜ十字軍での残虐な行為や異端の弾圧を行い、宗教戦争にも繋がるカトリックとプロテスタントの対立が生じるのかが不思議に思えた。宗教を巡る血なまぐさい長い闘争の歴史を見ると、自己の側と他者の側に線を引き、博愛はあくまで自己の仲間内におけるものであるかのようにも思えた。そうした中、中南米の先住民が農場や鉱山での労働で酷使され激減している状況を批判し、「インディオの使徒」と呼ばれたラス・カサスのような存在は一筋の希望を与えてくれる。
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