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2021年12月19日23:36

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本棚446『深夜特急5 トルコ·ギリシャ·地中海』沢木耕太郎(新潮文庫)

 長い旅路も次第に終わりへと近づいていく。人生と同じく、旅も幼年期、少年期、青年期、壮年期を経て、老年期へと向かう。軌を一にして、旅の舞台は、熱気と混沌の渦巻くアジアから、安定と衰微をはらんだヨーロッパへと移っていく。季節もまた、旅が始まった春から、いつしか冷ややかな秋の終わりになろうとしていた。

 アジアの最後の地であるトルコでは、次のバスが出るのは一週間後と言われ必死に出ようとするバスを追いかける場面や、青ではなく黒いという海に惹かれ「黒海」へと向かう場面など、昔読んだ細部のエピソードが鮮明に蘇ってきた。

 そして、ヨーロッパの入り口であるギシリャへ。旅の終焉が近いからか、廃墟を訪れるからか、冬という季節からか、どこか哀愁を感じさせる描写が印象に残った。例えば、ミケーネ王朝の遺跡では、滅びの美とでも言うような、優美と寂寥とが混ざった感傷がある。

 「宮殿跡には誰もいなかった。私はたったひとりで歩き廻りながら、この風景にどこか見覚えがあるような気がしていた。 私はしだいに暗くなっていく中、遺跡の最も高いところへと歩を運んだ。そして、そこから外界を眺めた瞬間、あまりの美しさにほとんど息を呑む思いだった。 陽が完全に沈んだアルゴスの平野は、無彩色の世界に近づきつつあった。すべてが薄い墨色に変わりはじめ、ところどころに湖と見まごう靄がたちこめている···」

 そうした中、ペロポネソス半島からイタリアへと向かおうとするギリシャ最後の日、道で偶然挨拶を交わした男から、友達の家での誕生日パーティーに誘われる話は温かな幸福に満ちたものだった。簡素だけれど美味しい料理、一家の記念写真を撮ったり子どもと紙飛行機で遊んだり、互いに言葉は分からないけれど心は通い合い、桃源郷のような一時でギリシャの旅は締めくくられる。

 旅とは何か、この旅をどのように終えるか、過ぎ去ったこれまでの旅路と刻などへ思いを馳せながら、アドリア海をイタリアへと向けて進んでゆく。
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