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2020年01月29日21:01

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本棚249『名画に隠された「二重の謎」』三浦篤(小学館101ビジュアル新書)

 神は細部に宿る、という言葉を体現するような美術書だった。伝統絵画からの変革期であったフランス近代絵画を代表する九人の画家たち。著者の眼は、彼らの作品の細部を射抜いている。マネの『笛吹き』の絵に残された二つの署名、スーラの『グランドジャット島の日曜日の午後』の絵の周りの点描による縁取り、ゴッホの浮世絵の模写における謎の日本語。ともすれば見落としてしまいそうな細かなところに光が当てられている。

 それは単なるトリビアルな指摘にとどまらず、大きな流れへとつながってゆく。例えば、セザンヌの『カード遊びをする人々』。二人の男の椅子の背という細部を起点に、作品に生命を与える形態と色彩の精妙なバランスという一つの絵全体へ。さらには、固定された位置から見た対象を忠実に再現する従来の絵画から、自らの感覚に従って自在に対象や空間を変形させる絵画への転換という、美術史全体へと視点は広がる。

 どの絵の謎解きも面白く、これからは美術展でもっと一点一点の作品を丁寧に観たいなと思った。大好きな絵とその謎を前にした感興が滲み出た、熱く瑞々しい文章も魅力であった。

「セザンヌは対象を前にした自らの感覚を決して忘れることなく、単なる写実でも抽象でもないある秩序を表現しようとしたのである。それは言うならば、曖昧な印象を堅固に構造化したもの、一瞬の感覚を永続化したものであり、セザンヌのものでしかない筆触を用いて色と形を組み合わせた、独自の造形世界の創出であった。」
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