mixiユーザー(id:2716109)

2020年01月27日09:03

132 view

本棚248『オイディプス王』ソポクレス(岩波文庫)

羊飼いの男「ああ、いまやとうとう、口にするのも恐ろしいことを、言わねばならぬ羽目に追いつめられたか!」オイディプス「このわしにとっても、聞くも恐ろしいこと。それでもわしは、聞かねばならぬ!」

 謎を追い、極限まで高められてゆく緊迫感。衝撃的な真実の発見と逆転。途中で微かな希望の光が差すことで、その後の漆黒の絶望が強調される。ギリシア悲劇の傑作は、あたかも最古の推理小説のようだった。
 
 疫病や飢饉などに見舞われた古代ギリシアのテバイの都。その災厄から逃れるには、先王を殺した者を明らかにし、死をもってこれを罰するか、この地より追放するか、とアポロンの神託は言う。
 躍起になって先王殺しの犯人を突き止めようとするオイディプス王は、激情に駆られ、猜疑心に満ち、王妃や義弟さえも信じられぬ様は、リア王やオセローを想い起こさせる。

 やがて真実が明らかになり、妃を失い、瞳を失い、テバイの地から追放されることになったオイディプス。そこに、零落し打ちひしがれた人間の弱さを見ることもできるが、愛する娘達との別れの際に投げかける幸福を願う言葉を読むと、人を疑い傲慢であった過去の姿から憑き物が落ちたかのような、真の人間性を取り戻した、さっぱりとした穏やかさも感じ取れる。

 運命という大海に翻弄される小さき葦舟のような、微小な人間という存在。それを圧倒的な熱量をもって描ききった本書は、二千年以上の時を超えて、読み手の心を揺さぶり続ける。
0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2020年01月>
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031