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2020年01月21日08:35

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本棚245『美しい日本の私』川端康成(講談社現代新書)

　ノーベル文学賞の受賞記念講演で、サイデンステッカー氏による英訳も収められている。草稿の冒頭部分の写真がある。表題が当初の「日本の美と私」から「美しい日本の私」へと書き直されていて、ただ語順を入れ換えただけであるのに、豊かな広がりを帯びている。

　和歌や源氏物語、庭園、茶道、日本画、禅など、心地よく話題を転じ、日本人の心性、日本の美の精髄を語ってゆく。日本の美の伝統をつくりあげた華麗な王朝文学、より多くのものを象徴する不均整な庭園、ただ一輪のつぼみを生ける茶室、日本画の余白と省筆の精神ー。

「色のない白は最も清らかであるとともに、最も多くの色を持っています。」「「無」は西洋風の虚無ではなく、むしろその逆で、万有が自在に通ふ空、無涯無辺、無尽蔵の心の宇宙です。」

　初めて日本文学、日本文化に触れる海外の聴衆に対して川端は決して「手加減」をしない。日本人でも理解が難しい思想や日本人も知らないエピソードもためらわず用いる。日本文化と西洋文化の共通性を中途半端に示すのではなく、逆に徹底して日本文化の特殊性を示すことで、表層的なオリエンタリズムや東洋趣味を超えて、日本文化の本質を世界の人びとの心に伝えようとしたように思えた。
　占領期に米兵が寄席に来た際、不慣れな英語を無理に混ぜ込んだ滑稽噺は失敗する一方、名人が日本語だけの人情噺を静かに語ると、米兵は襟をただし、最後には言葉は全く分からないのに涙を流した、という昔読んだ話をふと思い出した。

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