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2019年12月13日22:21

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本棚229『書物の達人 丸谷才一』菅野昭正編(集英社新書)

 小説家、エッセイスト、批評家、書評家、文学研究家など多様な顔を持つ丸谷才一。本書は、2011年の没後に世田谷文学館で行われた連続講演をまとめている。
 文学と社会とを結びつける書評文化を日本に根付かせた意義を語る湯川豊、丸谷作品の内にある兵隊体験の記憶に着目した川本三郎など、六人とも違った切り口で丸谷作品の魅力に迫る。

 瀟洒で上品なユーモアのある、工芸細工のような仕掛けにあふれた作品の数々。それらの背後には、自由な意思を失わせる権力や権威、その最たるものとしての戦争への抵抗が、決して声高にではなく密やかに通底している。
 軍隊でラジオの玉音放送の内容が分からない上官に意味を問われ、丸谷が敗戦を告げると鋲のついた靴で殴りつけられた体験などから来る権威への距離感。他方で、自己の苦悩の内に閉じた自然主義リアリズムの伝統を否定し、本の読み方の最大のコツは、その本を面白がること、と喝破する姿勢。両者が絶妙に混ざり合うことで、「書物の達人」による、日本文学の系譜の中でも稀有な作品たちが生み出されたのだろう。
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