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2019年12月10日21:55

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本棚228『雨の名前』高橋順子、佐藤秀明(小学館)

　小糠雨、沛雨、篠突く雨、滝落とし、彩雨、翠雨、香雨、木の葉時雨、菜種梅雨ー。

　雨の多い日本らしい、雨にまつわる豊穣な言葉たち。初めて聞く雨の名前も多い。洒涙雨(さいるいう)は、七夕の日に降る雨。牽牛と織姫が逢瀬の後に流す涙とも、逢瀬が叶わなかった哀しみの雨とも言われるように、ロマンチックな響きを持つ。各地の方言も豊富で、天の鍋の底が割れたかのような長雨を指す淡路島の「鍋割」、猫の柔らかな毛のように細かな雨を指す唐津の「猫毛雨(ねこんけあめ)」など、多彩な地域性が感じられる。
　
　雨降りだと「天気が悪い」と言われるように、雨は災いをもたらす陰鬱なものとして忌み嫌われることもあるが、大地や樹木を潤す雨に対し、慈雨や喜雨、甘雨、恵みの雨を高価な錦に例えた錦雨といった言葉も贈られる。
　雨の持つ二面性。平安の女流歌人、赤染衛門の歌「さみだれの空だに澄める月影に　涙の雨は晴るる間も無し」における悲しみの象徴としての雨。一方で、「夏雨(かう)人に雨(ふ)らす」ということわざもある。涼しさを呼びこむ夏の雨のように、苦しみの最中の人に恵みをもたらすという意。いい言葉だなと思った。

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