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2019年11月22日19:46

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本棚220『翻訳と日本の近代』丸山真男、加藤周一(岩波新書)

 翻訳によって西洋文明を次々と吸収し、急速な近代化を果たした明治の日本。本書では、翻訳の背景、何を、どう訳したか、徹底して翻訳主義をとった理由とその功罪などを、加藤周一が丸山真男に問いかける。東洋と西洋の思想に精通した丸山真男の「深さ」と、医学、思想、文学、美術等の知識を持つ加藤周一の「広さ」。両者の該博な教養に基づく対話は、多くの新鮮な驚きを与えてくれる。

 意外だなと思ったのは、明治初期の翻訳に歴史書が多かったという点。軍事や法制度、科学技術といった、すぐに「役に立つ」知識を採り入れているイメージが強かったので、果てはギリシャやローマまでの西洋文明の淵源を当時の日本人が探ろうとしていたことに驚く。
 幕末のベストセラー『万国公法』の翻訳の話も一章分割かれていて印象的だった。万国公法は人類普遍の法ではなく、原文では、civilized nationsやchristian nations、つまり西洋の文明国だけに妥当するルールとされていた。大河ドラマなどで、万国公法を引き合いに出して議論する場面を見慣れていたので、実は明確に「文明」と「野蛮」とが截然と分けられていたことに驚いた。

 こうした個々の具体の話も興味深いが、大きな見取り図が語られるのも本書の魅力である。例えば翻訳の背景。明治の短期間で、多様な領域で大量の西洋文献の洗練された翻訳を実現した背後には、中国語文献を翻訳し採り入れてきた徳川時代の文化があったと言い、射程は明治以前へと広がっていく。
 丸山真男はこの本の刊行を待たずして逝去したが、この二人の知の巨人の知的な愉しみに満ちた会話をずっと聞いていたかった。
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