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2019年10月24日09:21

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本棚209『新幹線の歴史ー政治と経営のダイナミズム』佐藤信之(中公新書)

 明治の鉄道の黎明期から始まり、戦前の弾丸列車計画、東海道·山陽新幹線の開通、今も建設が続く各地の整備新幹線、リニア新幹線と、新幹線の通史がまとめられている。それは、与党や省庁、地方自治体、国鉄·JRなどの各主体の思惑と駆け引きによる紆余曲折の歴史でもあった。「我田引鉄」という言葉に表されるように、新幹線の建設は常に政治の影響を受けてきた。接続する在来線もなく、広大な農地の真ん中にぽつんとある岐阜羽島駅の開業当時の写真が象徴的だった。

 東海道新幹線や山陽新幹線のように、人口が集中する大都市を結ぶ初期の新幹線の成功体験のインパクトが強かったためか、今でも、四国新幹線や山陰新幹線等の新たな新幹線の建設の要望についての新聞記事をよく目にする。
 しかし、地方部をはじめ少子高齢化·人口減少が進む中、新幹線は必ずしも地域活性化の「魔法の杖」でなく、その負の側面もしっかりと見つめる冷静な視点が必要であるように思う。
 もちろん新幹線がもたらす短期的な経済効果は大きいけれど、高速交通の整備によって人やお金が求心力のある大都市に吸い上げられるストロー効果、従来の路線(並行在来線)の運賃の値上げ·便数の減少と地元自治体の負担増、延伸で途中駅になった場合等の中長期での地域の衰退、競合する地元の空港の利用減といったデメリットも考えられる。
 
 過去、様々な主体によって翻弄され続けた歴史を持つ新幹線だからこそ、欧米で始まり、日本でも広がりつつあるEBPM(Evidence based policy making)のように、客観的な証拠(エビデンス)に基づいて、政策の効果的な決定·運営を目指す取組みが役立つだろう。その上で、どのような地域の将来像を目指していくか、沿線に暮らす住民の方、ひいては税負担をする国民にとって真に有意義なものになるか、といった議論が深まるのが理想ではないだろうか。
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