『男はつらいよ』の映画で、マドンナの松坂慶子が、寅さんの魅力を「温かさ」と言ったのを思い出した。「それも、電気ストーブのような温かさじゃのうてえ、ほら、寒い冬の日、お母さんがかじかんだ手をじっと握ってくれたときのような、体の芯から温まるような温かさ。」
本書はどの話も10頁足らずの掌編だが、寅さんのような、じんわりと伝わってくる優しく穏やかな温かさを持っている。家族や友人との誤解や行き違い、わだかまりなどがラスト、すっと消えてゆく感じがいい。大きなどんでん返しはないが、上質の人情噺のような清々しさがある。
21話それぞれの魅力がある。特に、谷口ジローによって漫画化もされた『再会』が、プロットや心の動き、余韻等の点で白眉である。
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