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2020年02月26日19:31

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醜く汚く、哀しくて・・・( 映画『屋根裏の殺人鬼、フリッツ・ホンカ』)

1970年代の旧西ドイツ、ハンブルク。そこでおそるべき事件が発覚する。
フリッツ・ホンカなる男が数年間にわたって、関係を結んだ女性を次々に殺害し、その遺体をバラバラにし、自宅である屋根裏部屋の壁の奥にしまい込んでいた。
どうして彼はそのような悪逆無残な行いをしていたのか?彼は何者だったのか?

昔から救いようの無い男が主人公の、いわば「ろくでなし」「悪人」ストーリーというのは映画で数多く描かれてきて、名作も多い。
僕も今までいろいろ観てきたのだけど、この映画の目を背けるような嫌悪感は尋常ではない。

まずフリッツそのものの人物像。
若い頃に事故に遭ったのが原因で容貌は醜く、無趣味で無教養、大人しそうに見えるが実は暴力的。情緒感がどこか欠落しているとしか思えない。
映画では、父親が共産主義者で、ナチスに弾圧され、子供の頃に母親からはネグレクトされていたというのがほのめかすように語られる。もちろん身内らしい身内は側に居ない。
不幸な生い立ちを背負った男です。しかしそれが同情できないほど日々の暮らしは酒浸りで荒れ果てているだけでなく、行きつけの酒場で歳をとった、しかも容姿の衰えた娼婦ばかりをつかまえて事におよぶ(まともな女性は相手にしてくれないから)、殺したのはそういう女性ばかりである。
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これがもう、観ていて不快そのもの。コイツ、早いこと捕まってくれないかな、と思ったくらい(笑) もちろん最後はそうなるのだけど。

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しかしフリッツは「サイコパス」では決して無い。悪い星のもとに生まれ、真人間になれずに落ちぶれてしまった、たくさんのひとりに過ぎない。実は彼のような人はどこにでも居る。
しかも、『ジョーカー』と時を同じくしてだけにその思いはひとしお。
しかし『ジョーカー』は、泣けてくるくらいに観る者の「不幸の共感」を溜飲と共に揺さぶられる、言わば「ピカレスク・ロマン」なのだけど、この映画はそんなロマンどころか、メッセージすら拒否していてひたすら醜悪。少なくとも観ている間は・・・
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こんなダーティー極まりない映画を作り上げたのが、僕が昔から大好きな監督、ファティ・アキンというのも驚きだ。
彼はデビュー当時から喪失や別れといった、重たく哀感に満ちた映画を撮り続けてきたのだけど、その眼差しをこんなふうに振って見せるかとおそれいるばかり。

当時のドイツは、戦後の高度経済成長が一段落してもまだ安定していた、と思われていた時期。しかし戦争の傷痕はまだ残っていただけでなく、社会の澱みも確実に存在していた。
ハンブルクはそれを象徴する街だったのかもしれない。
ドイツ第2の経済都市であり古くからの港町。独特の猥雑な風紀に満ち(ビートルズの下積み時代は有名だし、フリッツの行きつけ酒場の「吹き溜り」感も半端ない )、トルコ人やギリシャ人などの外国人労働者たちが数多く住んでいた。アキン監督もハンブルク出身のその家系で、これは言わば彼にとっての「反世界」なノスタルジーと言えるかもしれません。

フォト>【予告編】https://youtu.be/_zsafU419sc

〈シネリーブル梅田で公開中〉


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