観光、自転車、映画・・・、いろいろな分野で台湾が注目されて久しいですが、実はアニメにおいては全く業界らしい業界がそれまで存在していなかったのが意外だったのです。
こんなにいい作品を観た後に知ったことだから余計に。
1975年、蒋介石が亡くなったその日に生を受けた少女チー。彼女の成長物語。
台湾語が公には控えられた、北京語による教育。
大好きなお婆ちゃんが先住民族の血を引いていることに対する複雑な思い。
優しい従兄弟のお兄さんは、民主化運動に加担したかどで警察に捕まり「痛い目」に遭わされたことがある。
その後も幾度となく起こる民主化運動。
1999年の大地震。
米軍人がお父さんの、ハーフの同級生。
台湾で大人気だった「ガッチャマン」
彼女の歩みは、まさに台湾現代史と分かち難く関わってきて、そこにちょっとしたノスタルジーも込められているのに注目させられるのだけど、そこはアニメ、決して社会派ぶったものだけでは無く、『クレヨンしんちゃん』を思わせる無邪気で素朴な画風に、度肝を抜くような、イメージが奔放に溢れ出す映像に圧倒されます。
特に、チーが幼い時ほどそれが頻繁に登場して、やっぱりそれは子供の無垢な想像力だな、と。
チーの両親は決して豊かでは無い庶民。
ふたりはチーの将来のためにできるだけの愛情と労力を注ぐ。それに応えようとするチーだけど、いつしか彼女は自分の人生を歩みたい思いが溢れてくる。そして彼女が選んだ道は・・・
期待通りの人生を歩める人ばかりとは限らない。
自分が思った通りの人生を歩めても、それが幸せとは限らない。
迷うこともあるし躓くこともある。後悔して立ち竦む時も。
だけど、いつでもそれを受け入れてくれるのは家族。
この映画の奥に込められてる「想い」。ああきっと、そこに多くの人達の共感を得たんだなと。
センチメンタルだけど決して鼻につかない、台湾らしい人情味に包まれるような佳作でした。
【予告編】
https://youtu.be/KZwfl9Il3rw
〈 テアトル梅田で公開中 〉
僕がこれを観て思い出さずにいられなかったのは、同じアニメ作品で12年前に公開された『ペルセポリス』
イラン人女性「マルジ」が少女時代を回想したストーリーがよく似てるな、と思いきや監督のソン・インシンさんは、それを観て「自分もこんな物語を作りたい」とインスパイアされたとのこと。
かと言って本作がエピゴーネン(二番煎じ)とかで魅力を損なうわけでは決して無いのですが、『ペルセポリス』もいい映画なので機会があればぜひともご覧頂きたい。(本音を言えば原作漫画ももっと面白いのだけど)
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