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2020年01月21日17:51

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暁光を求めて ( 角幡唯介『極夜行』を読む )

著者の角幡唯介さんは冒険作家。
4年前に読んだ『雪男は向こうからやって来た』がことのほか面白くて以来、ずっと気にしていた方だった。(大宅壮一ノンフィクション賞作品)

一昨年に読んだ「新・冒険論」で、地球/世界で残された未知の冒険領域として極夜の北極圏を上げ、そこに挑む所信を述べていたが、著者が本書で明らかにされるそこは、まさにおそるべき世界。

一日ずっと日が沈まない「白夜」はよく知られてることですが、その反対側に全く逆の、一日ずっと夜が明けない「極夜」があるのを知っている方は何人おられるでしょう?
しかもそれは緯度の高さによって期間が異なってくる。
角幡氏が挑んだグリーンランド西北端はなんと最長2か月!

我々は「おひさま」の下で生きているのが普通だと思っている。夜があっても、それはいずれ明けるのが当たり前だと。
しかし極夜はその常識が覆される、そこに身を置くことによって全く違う意識へと変化、知覚が生まれてていく。
まさにそれは心の未体験ゾーンだ。
しかも著者は、橇を引いてさらに北の目的地を目指さねばならない。その期間は極夜と同じおよそ2ヶ月。極地探検では決して珍しくない日数とは言え、その間はずっと夜なのである。
感覚がどんどん研ぎ澄まされたかと思えば、夢幻の中にいるような心境にもなる。月や星の存在がより身近なものになっていく。
そこに重みを増すのが天候や食料との闘い。
特に、読んでいて切なく感じたのは彼の「相棒」、橇を引くのをアシストする犬。食料が欠乏すれば彼を殺して食べねばならない・・・
実はここにも、人と犬との関係性の原点が見えてくる。
そう、古来オオカミが人間のパートナーになったのはペットなどではなく、使役するためだった。互いに守り合う存在。その役に立てないのは容赦なく「処分」させられる。今もイヌイットの人たちにとっての犬はそうだという。

そうかと思えば、唯一頼りにする天然の灯りである月。これが不規則な運行で、それに翻弄されるのを、通いつめていたキャバ嬢に例える(しかもかなり熱っぽく・・・笑)下世話なユーモアを発揮するも彼らしくて可笑しい。

自分は目的を果たせることができるのか?
厳しい状況に晒されながら、そういう迷いや疑念、挫折の予感に苛まされる。それらがヴィヴィッドに綴られ、角幡さんの行方に目が離せなくなってくる。

『新・冒険論』で彼が唱えた冒険とは何か?それは様々な常識の外へ飛び出す「脱システム」 
彼はそれを、自然の驚異と自分の内面探求の両面で達し得るのだろうか?
本書はまさに、角幡氏渾身のチャレンジとその記録です。メビウスの輪のように完結する書き出しと締めくくりは、さすが名ライターの妙だと唸らされたことも付け加えておきたい。

フォト
レビュー評価は★★★★★!

ちなみに、本書は正月休みの間中にあらまし読んだのですが、以前日記にした映画『ヘヴィ・トリップ 俺たちゃ崖っぷち北欧メタル!』の待ち時間にスタバで読んだのが今思えば偶然というかおかしい。
なぜなら、この映画の舞台であるフィンランド北部にも極夜があるからだ。
極夜はこの地域の人たちのメンタリティにも大きな影響をもたらすそうです。すなわち躁と鬱の振幅。ヘヴィメタが盛んなのもそれが一因だそうな・・・


フォト『雪男は向こうからやって来た』
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『新・冒険論』
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『地図のない場所で眠りたい』(高野秀行さんとの共著)
http://mixi.jp/view_item.pl?reviewer_id=26940262&id=3025769

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