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2019年12月07日21:37

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努力は苦手、でも頑張りたい ( 角田光代『なんでわざわざ中年体育』を読む )

そもそも本書はマイミク女史が日記で紹介されていたもの。
さっそく近所の図書館で貸し出して読んでみれば、これが面白いだけでなく「身につまされて」ばかりだと苦笑いさせられる、だけではなかったのです。

最初にお恥ずかしい前置きになりますが、実は僕、著者である角田さんの小説を未だ一冊も読んだことが無い!
映画化されたのは何本も観てはいるけども。

で、その角田さん、最初に堂々(?)と打ち明けてられますが、生来の怠け体質にして酒呑み。作家だから生活サイクルもアバウト。
そんな彼女が、スポーツ専門誌の連載コーナーとして様々な競技にチャレンジ!・・・と思いきや実は彼女、それを始める10年前からランニングやボクササイズに勤しんでいたと言うではないか。
な〜んだ、しっかり動いて基礎体力を養っているじゃないか。ぜんぜん「なんでわざわざ」やあらへんやないか?と思ったのだけど、それでも本人は「努力が苦手」と言う。走るのは心身を引き締める(つもりの)習慣みたいなものなのか。それでも長年続けていると、「やらないと不安になる」なのだとか。
ううん・・・まず、これからしてよくわかるなあ自分(笑)

課題は主にマラソン、ラン系で、それにボルタリングやトレッキングが少し入るのだけど、読んでいてハッとさせられるのは、自分が挑戦しようとする(非日常)世界の発見と、自己との対話。アウトサイド、インサイドの眼差しがとてもヴィヴィットに綴られていくこと。
自己との対話で言えば、マラソン/ランと同じく自転車も基本的には内省的なスポーツだ。登山の単独行もそう。
たまらない歓びを味わえる反面には疲労との闘い、苦しさから逃がれたい葛藤などもろもろの忍耐。スタート前の不安・・・。大会に出場すればタイムの重圧(すなわち「更新せねば・・・」)がある。
それらが美文調ではない、解り易い語り口で(漢字の単語をあえて平仮名にする箇所が目立つ)己と闘う心理の核心をすうっと突くのはさすが名作家の技だと思った。

でも読んでいて羨ましいと思ったのは、角田さん、やっぱり人気作家だからお金以上に時間も人脈もあって(そもそもが雑誌の連載企画だから「お膳立て」してくれる向きはあるし)、我々のような一般市民に比べてやっぱり恵まれてますよ。有酸素運動の心拍測定なんて普通は出来る機会が無いでしょう。御本人はずいぶん謙遜されても、もはや立派な市民アスリートと言ってもいいくらいだ。たいしたものだと敬服させられるばかり。それと同時に「走る」「歩く」のっていいな。と思いも新た。ランなんてしてないくせに(笑)

角田さん、本当は「一生懸命」が好きなんじゃないの?怠惰な自分というのは照れ隠しなのかもしれない。
「怠け心」と「やる気」との折り合いをつけてマイペースな向上心を失わないことが生涯スポーツの楽しさなんじゃ?と読み終えて言い訳がましく得心した次第です(笑)

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レビュー評価は★★★★

〈 本書より抜粋 〉
「私は自覚している。もう少しがんばれるけれど苦しいからがんばっていないだけで、限界と言ってる自分のずるさを。
次は300mはダッシュしよう、と思う。けれど250で苦しい。止めてしまう。「増田(明美)さん、何メートルでもいいって言ってたし」と、言い訳まで用意する。」(P134)

「(タイムを縮めて) うわー、なんだかすごいことだ。何がすごいって、みずから体をはって真実をつかみ、それをもとにがんばって真実の証明をしたこと。」(P206)

あとがきより「中年体育8箇条」
◉ 中年だと自覚する
◉ 高い志を持たない
◉ ごうつくばらない
◉ やめたくなったら、やめる前に高価な道具をそろえる
◉ イベント性をもたせる
◉ 褒美を与える
◉ 他人と競わない
◉ 活動的な〈年少の〉友人を作る

角田さんの戦歴表情(嬉しい)
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