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2019年10月18日15:21

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異形のチャレンジスピリット (「RACERS vol.54 HONDA NR500」を読む )

歴代二輪レーサーの名車(もしくはそのシリーズ)たちをあらゆる方向から徹底解説した三栄書房の「RACERS」
気がつけば今年で10年目。
僕は割に「王道マシン」よりも、今まであまり語られることの少なかった「異色系」に興味が向く傾向にあるようだ。

そしてその極めつけが、このほど10周年記念号となった「ホンダNR」

ご存知でしょうか? 1979年、ホンダの2輪GP復帰に際して開発、投入したバイク。
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当時のGPは2サイクルエンジンが主流(それは「モトGP」に移行するまで続く)。そこに敢えて重たく複雑な4サイクルエンジンで挑み、重さをカバーする馬力(ウエイトレシオ)を稼ぐために回転数は破格の2万rpm!
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それを実現するためにピストンは真円ではなく長円(楕円というのは誤り)8バルブ!
コンパクトな車体も実現するためにラジエーターは正面ではなく横に配置され、極めつけは2輪レーサーとして常識外れの「モノコックフレーム」!
従来のパイプフレームよりも軽量/高剛性を狙ったものだ。
まさに、ホンダのチャレンジ精神の粋のようなマシンだったのですね。

僕ももちろん、オートバイに乗り始めて、二輪レースに関心を持ち始めた頃からNRの存在は知っていたし、専門誌でも度々取り上げられていた。知れば知るほどホンダの意欲に驚かされたものだけど、それを秘蔵写真満載で1冊まるごと語り尽くしたのは今回が初めてではないだろうか。
いや、ノンフィクション本で言えば、今も好著の評判も高い富樫ヨーコさんの『いつか勝てる』を思い出した。僕は未読だけど、本誌の巻末にも敬意をもって紹介されているのに編者の誠実さが伺える。

長円ピストンばかり語られがちなこのマシンだけど、実は今まで全容が掴みにくかったモノコックフレームが詳しくわかるのが嬉しい。
フォト 人呼んで「エビ殻フレーム」
リアサスペンションがフレーム上部にアジャストされてるのに驚かされる。(これは実物ではなく1/12モデル)
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よく見るとヘッドカウルと、フレームを形成するボディカウルが分かれているのにも納得。

そしてこのNR、結果から言うと成績は散々だった。特に最初の2年は全く走れない有り様。ようやくレースを走り切るポテンシャルを身につけても、ポイントには届かないまま4年間でプロジェクトは打ち切られる。それと交代するように開発されてGPを席巻したのが2サイクル3気筒の「NS」だった。
これもまた「ホンダの底力」なんだなあ、と思う。そして「RACERS」第1号が、そのNS500なわけだから、まさに円環を閉じるようなディケイドになっていて、編集者さんの企図のなんと心憎いことか。

もうひとつ見逃せないのは、NRプロジェクトの主力ライダーだった片山敬済さんのインタビューだ。
当時、日本を代表するGPライダーだった彼はホンダのGP復帰を「意気に感じで」オファーを受けたが、走らないバイクのおかげでキャリアハイの時期を棒に振ったと言われ続ている。
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御本人は何を思うのか?これがまたストイックでポジティブな片山さんらしい「レース哲学」が今も全開。実は彼が後に禅やスピリチュアル系に傾倒したのがこの時の「走れないジレンマが心を蝕むのを防ぐため」からだったのだそうだ。

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レビュー評価は ★★★★

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