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2020年08月01日00:06

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人生の嵐 (デュオ・クロムランク)

「マルタ・アルゲリッチ 子供と魔法」を読んで、すっかり芽生えてしまったのがピアノ・デュオへの愛。

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正直言って、これまではこの分野を軽く見ていたし、いつの頃からかアルゲリッチの新譜は、相手をとっかえひっかえしての連弾ものばかりであまり興味が持てないでいたのです。ところがこの本を読んでから気持ちが変わって、いろいろ手持ちのCDを引っ張り出したり、新たに買い求めたりして聴き直しています。

本書で知ったこの分野のスペシャリストに、「デュオ・クロムランク」があります。

アルゲリッチは、母ファニータの死後、アルゼンチンの古い友人の縁でブリュッセルに新居を構えることになります。ジュネーヴの家は、音楽家たちのたまり場のようになっていましたが、ブリュッセルの家での暮らしはもっと落ち着いたものになったのです。アルゲリッチも年齢とともに、気ままな暮らしや大勢の人の行き来に少し疲れてきたのだといいます。

ブリュッセルでは、彼女のそばで育った若手演奏家たちのグループができあがります。母ファニータが死んだときに、これからはこうした若手を自分が世話するべきだと強く感じたというのです。

尾羽を打ち枯らしてやってきた若手や、すべてを放り出してしまいたくなって、もう続けていけそうにないというピアニストもいました。アルゲリッチはそうした音楽家たちの話しを聞き安心させてやり、無名のどん底から羽ばたかせてやる。もちろん、誰もが幸運に恵まれるわけではなく、夢に破れ、花屋、学校教諭、看護師になった人もいるといいます。

そうしたドラマと苦悩の場所でもあった“ピアニストたちの通り”に、ある日、突然に何の警告もなしにとてつもない悲劇が降りかかってきます。

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「デュオ・クロムランク」は、ベルギー人のパトリック・クロムランクと日本人ピアニスト、桑田妙子とのデュオ。

パトリックをアルゲリッチはごく若い頃から知っていました。彼はウィーンのディータ―・ウェーバーのもとで学び、そこで妙子と知り合います。彼女は彼の音楽パートナーとなり妻になったのです。1974年に二人はデュオを結成し、すぐにその力にふさわしい名声を得ることになります。

アルゲリッチは二人が大好きでした。

『二人はとても幸せそうで、それを見ているとマルタは自分の結婚への偏見を忘れた。パトリックと妙子は二人が融合したようなカップルだった。どちらかが一人でいるところを見ることはなかった。』

『妙子はマルタが留守のときに娘たちの面倒を見てくれた。ファニータが息を引き取った夜もついていてくれた。彼女の個性は、控えめで伏し目がちという日本女性のイメージとは対照的だった。妙子は自分の気持ちを熱く、狂おしいほどに表現した。夫のパトリックは機知に富み、デリケートで、魅力的なユーモアのセンスも兼ね備えていた。』

ところが…

『それが高じて二人は外見的にも似てきていた。四手で弾くというのはどこか息が詰まるようで、ヴィルトゥオーソたちにしてみると欲求不満に陥りがちだった。身体は窮屈で、手が重なり合い、腕は交差する。息があわなければ長続きしない。二人のピアニストは、互いを鎖でつないだタンゴのペアを思い起こさせた。』

『1994年7月、翳りのない20年間ののち、デュオで録音したシューベルトの幻想曲ヘ短調を聴き、パトリックが言った。「これで二人のデュオの録音は最後にしよう」と。激しい口論となった。それまで一度もなかったことだった。夜が明けても、パトリックはそれ以上を言おうとしなかった。二人はマルタに会いにきた。マルタは旅から戻ったところだった。』

『口論と涙の夜を過ごしたあとで、二人のどちらの気持ちも察していたマルタの思いも虚しく、恐ろしい言葉が発せられた。だが、愛情が損なわれることはなかった。』

5日後、自宅で二人の遺体が発見されます。妙子は首を吊っていて、その足もとにはパトリックの遺体が横たわっていたのです。まるでロメオとジュリエットのように、妙子はパトリックの遺体に絶望して自らも後追い自殺をしたのです。

『妙子は喪のしるしに髪を切っていた。それは、彼女の祖国での死者を悼む伝統を奇妙なほど連想させた。』


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マ・メール・ロワ/ピアノ・デュオのためのフランス名曲集 CLAVES/KICC8737

完璧に一体化した4手が奏でる夢と幻想の宇宙。二人の録音のなかでもとびきり繊細な演奏で、録音は息を呑むような美しさ。

二人には子供がいませんでしたが、それは「デュオとして世界中のどこにも行かなければならない。そのためには子供はいないほうがよい」という音楽へのあまりにもひたむきで真摯な二人の覚悟のせいであって「でも本当は二人とも子供は大好き」なのでした。このアルバムは、子供のために書かれた曲が3曲も集められていて、幼い子供の頃に夢見た幸福に満ちた遊びの世界が細心のタッチで描き出されています。


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シューベルト:ピアノ連弾曲集(第3巻) CLAVES CD 50-9423)

シューベルト死の年に作曲された3曲の4手連弾曲を含む。デュオにとってもシューベルト連弾曲集の完結でもあり、そして「幻想曲ヘ短調」は文字通り二人の白鳥の歌となりました。

シューベルトは最晩年の3つのピアノ・ソナタのような瞑想の世界とはまた違った熟成を聴かせてくれていて、その高度な洗練のなかに異様なまでの緊張をはらんでいて聴く者の胸に迫ります。

アレグロ イ短調は、シューベルトの死後12年ほどたって出版されたもので、「人生の嵐(レーベンシュトュルメ)」との標題は作曲者自身のものではなく出版社がつけたものですが、「デュオ・クロムランク」の二人の悲劇を知ってしまってから聴くと、その悲愴な荒々しさに、その場にいたたまれないような気持ちになってしまいます。

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コメント

  • mixiユーザー

    mixiユーザー2020年08月01日 09:26
    情報有難う御座います・・・・このDuoグループのDebutアルバム(LP)を知人から14−5年前にプレゼント(間違ってDouble購入)された時はあまり興味も湧かなかったのですが、この日記で再度聴くことにしました!!
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2020年08月01日 12:11
    何枚か持っておりますが、やっぱりチャイコフスキーの「悲愴」の連弾が最高という気がします。特に三楽章。オケならグランカッサの一発をピアノの低弦でうまく表現しています。
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2020年08月01日 14:22
    ブラームス のハンガリー舞曲や交響曲第4番も良かった。
    しかし、何故心中なんかしたのか?
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2020年08月01日 16:01
    心中ではなく、旦那が先で奥さんが後追い。旦那はゴッホや太宰みたいに破滅的なところがあったのではないでしょうか。凡人にはわかりかねますが・・・いずれにしてもこの事実でせっかくの名演奏を聴いていても暗くなります。
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2020年08月03日 10:42
    自殺の理由というのは常に謎ですが、本書が暗示しているのは私生活もすべて互いに束縛し浸潤一体化したことへの反動だということでしょうか。デュオということをこれほどまでに突き詰めることの凄みのようなものに、本書のこの一節を読んで思わずたじろいでしまいます。思えば確かに4手連弾というのは私的にも危険なまでに緊密ですし、究極のアンサンブルだという気もします。
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2020年08月05日 10:42
    「デュオ・クロムランク」、教えていただき感謝です。you_tubeに動画がたくさんUPされていたので聴いてみました。悲劇的な最期の話を知ってから、シューベルトの曲を聴くと胸が熱くなります。微妙なニュアンスが表情豊かでありながら、なんとも言えない凄みがあります。一方でこの二人のドビュッシーの「海」は、いろいろな楽器で演奏される管弦楽版よりも、デュオ・クロムランクの連弾の方が音色に微妙な工夫もあって、チャーミングな印象を持ちました。彼らのCDを買ってみようと思います。
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2020年08月07日 18:10
    > mixiユーザー 
    >管弦楽版よりも、デュオ・クロムランクの連弾の方が音色に微妙な工夫もあって、チャーミング…

    ほんとうにそうなんです。ラヴェルやビゼー、ブラームスなど、もともとが連弾で後に作曲者自身が管弦楽にしたものだけではなく、もともとが管弦楽だったものを連弾で聴くと不思議と音のテクスチャに深みを感じさせるものがありますね。新しい楽しさです。

mixiユーザー

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