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2019年11月07日13:41

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「世界地図を読み直す」(北岡伸一著)読了

著者は、政治学者で東大名誉教授。いわゆる行動的学者として、政府の委員会や諮問機関等に深く関与し、2004年から2006年まで国連次席大使を務めた。東大退官後は、政策研究大学院大学などを経て、2015年にはJICAの理事長に就任し、現在も現職にある。

本書は、主に新潮社の雑誌「フォーサイト」に連載されたエッセイがもととなっていおり、政治外交の啓蒙書というよりは、JICA現職理事長によるエッセイともいうべきもの。事実、著者自ら冒頭で《政治学者》の著述ではないと自己弁護している。

JICAとは、外務省所管の独立行政法人「国際協力機構」のことで、日本のODA事業を一手に担っている。そこの現職理事長の所感なのだから、当然に現政権の外交政策肯定であり、日本のODA事業からの発信、はっきりいえば広報宣伝ということになる。そこに、国連大使時代で得た知己の紹介や人脈の豊富さを喧伝することにも怠りない。一方で、CMだから、とても読者に親切で読みやすい。そこに本書の真骨頂がある。

JICA理事長としての見識は、最初の序章に明示されている。自らが制定したJICAの「インフラ四原則」というもので、あくまでも実務機関の運営理念に過ぎないが、それなりに日本のODAの政策原則を体現しているといってもよいのだろう。

1.そのプロジェクトがその国の発展に役立つこと
2.その国と日本との関係強化に役立つこと
3.日本の経済や企業にとって利益があること
4.JICAの財務に過大な負担とならないこと

この原則を基本として中国の膨張的で侵略支配的(=『新・帝国主義』)な海外援助政策をやんわりと批判し、それに対抗する日本のODAの有効性を訴える、というのが本書の根底を貫いている。いわば、米国やインドと連携したソフトパワーによる中国包囲網ということになる。そのなかで、中国やロシアの周辺の小国を丁寧に巡回し、そこでの小国史や地勢などを伝えながらの自画自賛の見聞録ということになる。現地職員の活動も取り上げるから、まるでJICAの社内広報誌でも読んでいるようで、なかなか面白く、身内気分満載の心地のよさがある。

とはいえ、オバマ政権時代の中国黙認・宥和策への批判や、現・トランプ政権の対決策の肯定は、個人的には賛同するものの、ちょっぴり危なっかしさも感じる。特に、トランプ政権の無知蒙昧な高官に中国の海外援助の悪辣さを気づかさせ知恵をつけたのは自分だと言わんばかりの記述には、現時点でのトランプ政権の経済貿易攻撃の粗暴さを実見しているだけにいささか背筋が寒くなる。

著者は、国連大使時代に、いわゆる国連改革に取り組んでいる。改革とはすなわち常任理事会の改革であり、それは第二次世界大戦戦勝国の国連支配の打破と日本の常任理事国入りの野望である。そのことは、もちろん、あえなく挫折したが、その主張の代償として、自衛隊を地球の裏側にまで派遣するという軍事的解決を目指す外交への積極関与姿勢を定着させてしまっている。本著でも、外交の両輪は、経済力と軍事力だと繰り返している。

曲学阿世とまでは言わないが、学者としての哲学の原則と現状批判や将来の理想像というものはそれになりにあって欲しいと思う。政府機関のトップ官僚の自己組織肯定の書を読んでも、世の役に立つとは思えない。





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世界地図を読み直す:協力と均衡の地政学
北岡 伸一
(新潮選書)

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