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2019年10月09日18:43

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感性のバッハとの冒険 (佐藤俊介とオランダ・バッハ協会管弦楽団)

佐藤俊介は、モダンヴァイオリンとバロックヴァイオリンの両刀遣い。

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両刀遣いは、本来珍しかったのですが、モダンとピリオドを弾き分ける演奏家が目立つようになってきました。佐藤俊介も、ピアニストの河村尚子とのデュオやアンサンブル、水戸芸の庄司紗矢香らダヴィッド同盟への参加などモダン中心でしたが、もともとは2010年にバッハ国際コンクールで第2位および聴衆賞を受賞していて、むしろバロックの方に思い入れが深いようです。

その佐藤は、コンサートマスターとして参画していたオランダの名門・バッハ協会管弦楽団の音楽監督に、昨年、正式に就任したとのこと。今回は、いわばその監督就任凱旋ツアー。

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オランダ・バッハ協会管弦楽団は、1921年に創設された伝統のある楽団。当時、アムステルダムのコンセルトヘボウで恒例となっていたウィレム・メンゲルベルクの「マタイ受難曲」の二十世紀的に規模を膨張させた演奏に異議を唱えるべく編成された楽団。バッハの時代の音楽へ立ちもどり、小編成のアンサンブルで、本来鳴り響く場所である教会で演奏するという、当時としては画期的な試みでした。オランダバッハ協会の「マタイ受難曲」は、今もなお、毎年ナールデンの大教会にて演奏されているとのこと。

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会場は、佐藤が2017年まで3年越しのオリジナルプログラムによるシリーズを展開していた彩の国さいたま芸術劇場。

1994年に開館した、大小の演劇ホールを中心に映像ホールは大中小の稽古場やリハーサルルームから成るパフォーミングアーツの総合芸術館。地元・川口市の出身である蜷川幸雄の「彩の国シェイクスピア・シリーズ」を企画上演し続け、世界のニナガワ・シェイクスピアのベースキャンプとなった。

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設計は、東大名誉教授の香山壽夫(こうやまひさお)で、鉄筋コンクリート構造(RC構造)と鉄骨鉄筋コンクリート構造(SRC)を併用し、各ホール等を半円形に合理的に配置していて、複合施設としての見事な建築造形美を実現しています。

そのなかに、600席ほどのシューボックス型のコ音楽ホールがあります。香山は、大学キャンパスの建物や礼拝堂など教会建築に代表作が多く、音楽ホールはこれ以外にはほとんどその設計作品は見かけないのですが、このホールはとてもよいホールです。内部意匠は簡素ですがとても力強い律動感を感じさせ、響きもとても良い。音響設計はヤマハによるものですが、教会的な残響の美しさを感じさせてくれます。

プログラムは、バッハとその同時代の作曲家からなる、この楽団の活動の中核を示すもの。第1曲に管弦楽組曲第1番を配するのは、この曲の第1曲目の「序曲」がいかにも、そういうプログラムの開始にふさわしいからだと思います。

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佐藤と同じように両刀遣いである、イザベル・ファウストの最近の2枚組のバッハ・協奏曲集もこれととてもよく似た構成で、ディスク2の最初は管弦楽組曲第2番になっています。

佐藤は、いわゆる弾き振り。

つまりコンサートマスターの立ち位置から指揮をかねてアンサンブルをリードしていくというスタイル。アンサンブルは基本的には各パートは1名ずつ。バロックチェロとチェンバロ以外は全員が立って演奏します。歴史的にも、これが正統なスタイルで、まったく違和感がありません。佐藤は、協奏曲でもバッハの時代のコンチェルト・グロッソの様式を尊重し、プログラムの構成も各メンバーのソロ(コンチェルティーノ)がまんべんなく割り当てられるようになっています。イザベル・ファウストのCDでは、管弦楽第2番のソロをフルートからヴァイオリンに改変してしまっていますが、佐藤はあくまでも原曲に忠実です。ヴァイオリンがコンチェルタントであっても、トゥッティではアンサンブルの中に完全に埋没してしまっていて、そういうスタンスはむしろレイチェル・ポッジャーの方に近い。

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見ていて楽しかったのは、編成と配置が曲毎に変わること。

最初のバッハの組曲は、二つのVnとVaによる三声部の弦パートと二つのオーボエ、そして、チェンバロファゴット、チェロ、コントラバスから成る通奏低音という構成ですが、中央のチェンバロの左手に寄り添うように佐藤が立ち、左に弦楽器、右に管楽器という配置です。

ところが、2曲目のピゼンデルでは、左右が入れ替わり右が弦楽器、左が管楽器と逆転します。Vnが左手とは必ずしも限らないのです。この曲ではピッコロが活躍しますが、ソロ的な役割は左手に配置するという考えなのでしょうか。こうやって曲毎に並び替えて演奏されるのは、小規模で柔軟な編成というこの楽団の革新の創造的伝統なのでしょう。

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私の今回の座席選択は2階中ほどのバルコニー席で、ステージがよく俯瞰されて、このホールの響きの良さも堪能したのですが、こういう曲毎の配置変化の効果を実感するのはやはり1階中央席がよかったのかなとちょっぴり口惜しい気分もありました。

最後は、ブランデンブルクの第5番。

この曲では、フルートなのか、チェンバロなのか、あるいはヴァイオリンなのか、演奏家のネームバリューのバランスによって聴いた印象がずいぶん変わるのですが、彼らのここでの演奏は、まったく、三人が公平・均等。その分、丁々発止のコンチェルト的感覚が薄らいでしまうのですが、トゥッティでの音の融け合いと対位法的な重層と複合、名人芸の華やかさがとても心地よい。音楽とは、本来、こういう天体の調和なんだと、本当に気持ちの良い土曜の午後のひとときを味わいました。
 
 
 
 
 
 
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佐藤俊介とオランダ・バッハ協会管弦楽団
2019年10月5日(土) 14:00
さいたま 与野本町 彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール
(2階バルコニー SL列14番)

オランダ・バッハ協会管弦楽団
佐藤俊介(ヴァイオリン/音楽監督)
ヴァイオリン:
 アンネケ・ファンハーフテン Anneke van Haaften
 ピーテル・アフルティト Pieter Affourtit
ヴィオラ:
 フェムケ・ハウジンガ Femke Huizinga
チェロ:
 ルシア・スヴァルツ Lucia Swarts
コントラバス:
 ヘン・ゴールドソーベル Hen Goldsobel
チェンバロ:
 ディエゴ・アレス Diego Ares
バスーン:
 ベニー・アガッシ Benny Aghassi
フルート:
 マルテン・ロート Marten Root
オーボエ:
 エマ・ブラック Emma Black
 ヨンチョン・シン Yongcheon Shin


J. S. バッハ: 管弦楽組曲第1番 ハ長調 BWV 1066
ピゼンデル: ダンスの性格の模倣
J. S. バッハ: ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲 ハ短調 BWV 1060R
J. S. バッハ: ヴァイオリン協奏曲第2番 ホ長調 BWV 1042

ビュファルダン: 《5声の協奏曲 ホ短調》より 第2楽章
J. S. バッハ: ブランデンブルク協奏曲第5番 ニ長調 BWV 1050

(アンコール)
J. S. バッハ:
管弦楽組曲第2番 より 7. バディネリ
管弦楽組曲第3番 より 2. エア

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