《てぃーの商品開発部》
同僚と話すうちに新商品の発想に至った。
ここ数年で流行る『オフ商品』が話題だが、前回はダイエット飲料カロリーオフ商品（中身なし）で盛り上がった覚えがあり、そんな話の続きみたいなものだ。
話す前に伝えておくが、決して詐欺商品ではない事を予め念頭に入れて頂きたい。
そして…パクるなよ？
《商品開発第一案》
まず、健康志向という事で目に付く商品の決まり文句は『塩分オフ』とか『塩分カット』という文字。
何らかの商品に従来備わった味が、塩分を抑える事で気になる第一印象は、どうしても『味気なさ』だろう。
仮にまったく同じ商品でも、そこから塩分を差し引くだけで味が激変してしまうという良い証拠だが、そういった味の変化を無視したままに同じ銘柄を言い張っても良いのかという素朴な疑問が生じていた。
中身の何を操作しようが、味に変化が認められてしまえば、それは同一商品ではなく単なる失敗作に過ぎない。
全く同じ味、全く同じ見た目、そして全く同じ素材に全く同じ匂いがあり、その上で塩分が控えられているという事実が揃ってこそ、同一銘柄の『塩分オフ』を謳う事ができるものだと、俺は考えている。
だが、そこに漕ぎ着けないところが最大の壁であり、各メーカーの妥協せざるを得ない事実、そして力量なのだろう。
そんなワケで、俺が立ち上がる。
全ての条件をクリアした上で、誰でも作る事が出来る食品を俺は思案した。
その名は…。
『20％塩分オフ食塩（1�圈法�
食べ物かと言われれば、そうではないが、全ての理想を兼ね備えた一品（食塩）には変わりがない。
さて、『20％塩分オフ食塩（1�圈法戮世�、これは本来1�堝�りの表記がされている袋に封入する。
しかし、塩分オフ商品であり、その減塩加減が20％なので、中身は800ｇに制限する。
1�圓班週�しながら800gでは、200gばかり損した気分になるかも知れないが、そこはオフ商品なので何の問題も無い筈だ。
素材がどうのこうの、食物がどうのこうのという話ではなく、あくまで食塩を売るにあたり、商品構成の素材が100％食塩しかなかっただけの話であり、別に嘘をついている訳ではない。
カップラーメンの塩分オフは、麺やかやく、スープ等の素材の中に含まれる『塩分オフ』だが、食塩しか存在しない『食塩』という名の素材から塩分をカットした結果、偶然にも『食塩そのもの』が200gばかり邪魔になっただけの話だ。
という事で、1�堝�り食塩の失われた200gとは、ケチったわけではなく、健康志向の流れに乗った末に出来上がってしまった、味も見た目も素材も匂いも変えないままに仕上がった、完璧なまでのオフ商品なのだ。
もちろん、開発費用等の上乗せなどセコイ考えは一切持たず、お値段もそのまま。
健康志向の層には願っても無い商品として目に映る事だろうし、嘘偽りの無い商品の展開に俺も鼻高々となるだろう。
…真似するなよ？
《商品開発第二案》
塩の対角線上に控えるのは…？ そう、砂糖。糖分だ。
こちらはこちらで『塩分』よりも前に展開されたオフ商品が目立つ。
『糖分オフ』はもちろん、『カット』だの『ノンシュガー』だの、代替品や入り目を減らす事によって実現する、ほぼインチキ商品の『微糖コーヒー』系列はもううんざりだ。
どんなに頑張っても糖分が入っている事には変わりなく、それが『味わい』と感じる頃にはそれなりの砂糖はぶち込まれているという話だ。
どうして糖分を気にする輩が糖分を摂取するのか。そこが理解出来ないし、そして『健康志向』を謳うメーカーのそれぞれが、どうして健康を害すると言われる糖分を入れるのか。ここも理解出来ない。
しかし、形があるという事は原形があるワケで、結果を遡れば必ず起源は存在するものだ。
この場合の起源ってなんだ？
そう、『砂糖』だ。コイツが元凶だ。
という訳で、第二案始動。そしてすぐさま完成。
『ノンシュガー上白糖（1kg）』。
商品開発は意外と簡単だ。『ノンシュガー上白糖（1kg）』と記載されている袋を準備すれば完了だ。もちろん、商品を識別するバーコードも忘れずに。
見た目はただの空袋かも知れないが、これはこれで立派な上白糖だ。
ただ、謳い文句が『ノンシュガー』なため、不必要な糖分の抜いた結果、たまたま空っぽになってしまっただけの話であって、当然ながら嘘は一つも付いていない事を留意願う。
残念ながら見た目も味も匂いも遠退いてしまったが、健康志向の世代に合わせる為には選ばざるを得なかった苦渋の選択でもあった。
それでも、素材だけは正真正銘100％の上白糖という事を理解していただきたく、同時にその素材こそが邪魔だったわけで、最低限の素材を外した結果がコレなのだという事も理解願いたい。
ちなみに製造現場は従来の上白糖と同じラインで作られるため、加工手順も全て同じである。
もちろん、お値段は従来の上白糖と全く変わる事のない納得プライス。
上白糖が200円なら、ノンシュガー上白糖だって200円だし、特売で100円になれば、ノンシュガー上白糖だって100円となる。差別は設けない主義だ。
体に優しいノンシュガー上白糖は、きっと自然にも優しい事だろう。
…パクるなよ？ 勝手に特許取得するなよ？
《ちー+！ 057》
第一章 仲間たちとの行進曲 3-19
【拠点ネメス・ネメス城下町南区域】
チータスの金銭に対する無頓着さは知っていたつもりだが、改めて蓋を開くと相当なものだと城兵4人は感じ取っていた。いや、これまでも金銭に無頓着な人物は僅かながらに見てきたつもりだが、チータスのそれは金銭に対する知識から説明が必要なレベルであり、その使い道から詳しく理解していないようだ。
唯一の救いはと言えば、簡単な計算の答えを正確に出せる所だろう。様々な人種が交わるネメス城下町には相手の知識を見抜いて悪事を働く者も少なくなく、とりわけ金銭に関するトラブルは絶えないものだが、この辺は計算が出来るか出来ないかで天地の差があるものだ。
ダーマンから始まった、金銭の説明は実に少なくない時間を要したものだが、最終的には『金が無ければ生きていけない』という、これからの生活を迎えるにあたって、それこそ最低限の理解は得たようである。
「とりあえず、今のあたしのお金じゃ先が見えている事は分かった。悪い意味でね。…で、その先を1年後まで見通すためにはお城から貰えるお金が必要な事もね。…で、ナル、王様に会いに行ってみる？ お金貰いに…」
「ちょ…、勘違いしてもらっちゃ困るけど、お金は貰える訳じゃなくて、あくまで目標を掲げた試練の年を乗り越える為に準備金として借りる物なのよ！ 無条件に貰えると勘違いしないでよね！」
真剣味に欠けるチータスの言葉を聞き捨てるわけにはいかず、慌ててスケクが声を挟む。
そしてアッベシも。
「…それと、これはチータス殿にとっての最重要項目となりそうな話ですが、国王を前に、現在の様な言葉遣いは慎んで下さい。チータス殿の試練の年に対する期待度は並々ではありませんが、初対面のイメージは非常に重要でして、そこを悪く印象持たれれば今後がやり難くなってしまいますので…」
「やり難く…って、王様には何回も会う事になるの？」
「頻度こそ多くはない筈ですが、経過報告を要請される事があります」
「『けいかほうこく』？」
「…まあ、その辺は時間が経てば自然と解かって来る事だ。とりあえず今現在の最優先は入城して国王に謁見する事だ。馴れ馴れしさは今後の混乱を持つ羽目になるという事を忘れずにな…！」
ただでさえ長引いた話に対し、更なる延長を感じたラウニーは一旦の終止符を打ち、次にナルミに声を掛けた。
「…ところで、ナルミ様、宜しいかな？」
「…ほえ？」
8割方廃人と化したナルミの反応は鈍いが、辛うじて言葉を耳に入れる事は出来るようだ。
そんな表情のナルミを直視するには何故か少々の勇気が必要となったが、ラウニーは続けた。
「少しばかり勝手な事をさせて頂きましたが、ナルミ様が本来行おうとしていたアカデミー内部での魔道研究につきましては、『屋外学習を行う』として、明日以降の近いうちにアッベシをペナ・リノまで遣わせ、ナルミ様の野外研究許可の手続きを行います」
「ナンデスカソレ…？」
チータスをネメス城まで連れる任務の成り行きとはいえ、ラウニーをはじめとする城兵の4人はナルミを強引に引き連れて来た事に対して申し訳ない思いを募らせていた。
そこで誰ともなしに出た解消法が、どうにかしてナルミの試練の年を全うした形に出来ないものかという話である。
もちろん、4人はアカデミーに関して無知であったため、道中は悶々とばかりした時間帯であったが、本日、チータスよりも先に入城し、その手の内容に詳しい仲間に聞いたところ、どうやら試練の年に関するアカデミー学生はその施設内での研究に限らず、外部での研究に集中する事も可能という事だった。
要するに1年後の結果発表までに自らのテーマを完成させ、それを持ち帰れば無事に試練の年を乗り越えたという証明となり、ナルミの場合は終了証明を貰い受ける事ができ、持ち込んだ結果によっては晴れて魔道士の仲間入りも果たせる事になるという話だった。
ただし、ナルミ本人は既にこうしてネメス城に向けて移動していたため、もちろん、数日前に行われていた筈の始業式には参加出来ていない。
そこで城の遣いとしてアッベシを向かわせ、今年出現した勇者志願と共に行動しているという事で了承してもらうという手筈である。
勇者志願の話がどこまで広まっているかは判らないが、ペナ・リノほどの規模ともなる拠点では少なからずこの情報は入っていると思うため、さほど困難な話ではなく、むしろネメス城兵をわざわざ遣うほどの話であれば、アカデミー側からしても期待される生徒が外で活躍するという意味で宣伝にもなり、断られる理由が無いだろう。
また、国王『ディオ』の信頼の塊とも表現できる『王宮騎士団第三部隊特殊任務専行隊』の言葉はそれだけで権威に溢れているというのが周知の事実であり、その中でも伝令兵を勤めるアッベシの言葉とは、ある意味で国王の言葉にも匹敵を見せる。
少々事実を捜査している所は否めないにしても、『勇者志願の付き人』としての話であれば、その勇者志願の出現に首を長くして待っていたディオが嫌な顔をする訳がないといった道理だ。
「え…っと…、今ひとつ上手に理解出来ないんですけど…？」
一通りラウニーの説明を耳にしたナルミではあるが、出来過ぎた展開に耳を疑っていた。
とはいえ、今の自分の状況に悪い話ではない事だけは理解出来たようだ。
「簡単に言ってしまえば、ナルミ様は実際にアカデミーの始業式に姿を見せなかった訳ですが、それは勇者志願であるチータス殿に同行していたという理由を説明し、城側の認可の元の行動と伝えるのです。そうすれば、ナルミ様はアカデミー生徒の一人と数えられ、来年の今頃までに試練の年の成果を持ち込めば、無事に試練の年を終了させる事が可能となります」
「加えて言うならば、城から資金を預かる事でネメスでの生活はもちろん、暇を見てペナ・リノに行き来する事も出来るわよ。チータス殿との話が折り合えば、以後の残り期間をアカデミーで過ごす事も可能ね」
立場はアカデミー生徒と遠回しに述べたラウニーは、ナルミが最も気にするアカデミー内での魔術研究についてを言いそびれていたため、すかさずスケクが付け加えた。
この付け加えの説明でナルミの表情に生気が戻り、長らく待ち焦がれながらも早々に奪われた、彼女自身の夢の再獲得を理解する。
しかし、その反応に声を出し示すよりも早く、チータスが先に喜んだ。
「やったじゃんナル！ このままでも試練の年、続行できるって！ ペナ・リノに行けるって！ 来年の今頃にあたしも行くの付き合うから、それまで2人で頑張ろーよ！」
一応はチータスもこの話を理解したらしく、心の底から喜ぶ声も確認出来るが、ナルミをアカデミーに戻す気が完全に無い事も同時に理解出来た。
ナルミはナルミなりの解釈をした。
（ちぃ…、実はわたしを連れて来た事に対して少しは反省していたのね…。『強引に連れて来たはいいけど、返る事を考えていなかった』って…。だからこんなに喜んでくれて…。でも、きっと1人は心細いのね…。それで、無意識に本音が出てきちゃったのね。『帰れる事は分かったが、だからと言って離す気はない』って…）
…と。
これは幼い頃からの付き合いでチータスがナルミを理解するように、ナルミもまたチータスを理解するからこそ思い当たる内容であり、実際にチータスは同じ事を思っていたのだ。
「んふ。…鬼ね☆」
「ん？ なんか言った？」
「何でもない♪」
薄ら涙を浮かべて呟いたナルミの言葉を、チータスは聞き逃していた。
《あとがき》
個人的に楽しいと思う『架空商品開発』の談話。
こんな話について来れ、そしてたまに俺よりも一歩リードした考えを持てる同僚に恵まれた事は幸運だ。
周囲から見ればただのバカ話…、いや、それ以下の次元の話だと思われるが、まず現実的に無理があり、そうと判った内容を真面目に行う無駄時間とは、変な意味でリフレッシュになり、同じ仕事の同じ視野でも考え方が変わってしまうものだ。
大き過ぎるお世話なのかもしれないが、生真面目な人というのはこう言った考えを持てない人に多く、なんか時間を損しているように感じて止まない。
真面目はいいが、何でもかんでも真正面から考え過ぎる事により堅苦しく感じ、周囲が近寄り難くなるからだ。
…ま、人それぞれだから、どうでもいいんだけどね。
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