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2020年02月22日14:07

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あるオーディオ技術者の死

著名人の訃報の陰に隠れて、ひっそりと亡くなったオーディオ技術者がいた。

株式会社エーワイ電子 代表取締役 山枡 昌典氏
病気療養中の処、薬効甲斐なく 2020年2月9日永眠。

山枡氏は、ラックスマンに勤務していた技術者だったが、本格的なアンプ設計は独立してから。
(株)エーワイ電子のブランド名は「エルサウンド」。
トランジスタ、コンデンサ、ダイオードなどの「単体素子」を自由に組み合わせて設計した「ディスクリート・アンプ」を低価格で提供している。
https://ay-denshi.com/
山枡氏の紹介は画像の記事に詳しい。
フォト

https://www.facebook.com/photo.php?fbid=2244463019139607&set=pcb.2244463242472918&type=3&theater
私は、低価格で音の良いアンプはないものかと、いくつかの会社を調べて、Nmode、SOULNOTE、海外ではTRIGONに惹かれた末に、エルサウンドに行き着いた。

――数あるガレージメーカーの中からエルサウンドを選んだのは、たまたまの縁だったかもしれない。
しかし、一応試聴はした。
エルサウンドのフラッグシップ機「EPMW-30」を借りて試聴した。
試聴後、特注して作ってもらったのがこれ。
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これが私の所有する、エルサウンドEPMW-30特注品。
入力切り替えを省いた、ボリューム付きパワーアンプ。
部屋のレイアウトの都合で、スイッチとボリュームが通常と左右逆だ。
ボリュームは、当時エルサウンドが扱っていなかったアルプス電気製高級ボリュームを搭載。
シンプルを極めた構成だ。
こんなわがままを聞いてくれたのは、ガレージメーカーならではだ。

EPMW-30にする前は、SANSUI AU-07AnniversaryModel(中古)を使っていた。
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これとて、今はなきサンスイのプリメインアンプの最高峰と言われた物だ。
アンプを換えたきっかけは、スピーカーを換えたこと。
以前は小型の超高音質スピーカーを使っていたが、大入力に耐えられず、センターキャップが吹っ飛んだりした。
そこで買ったのがこれ。
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PIEGAのTC50、国内導入第一号機。
結構な高性能だが、小口径のウーファーに28Hzまで出させるのにはAU-07では力が足りなかった。
そこでエルサウンドの登場となった訳だ。
エルサウンドEPMW-30特注品は、導入初日からAU-07を凌駕した。
全く傾向が違う音、という訳ではなく、むしろAU-07そっくりだが、もっと自然にした感じの音。
低音は、AU-07よりTC50との相性が良くて、狙い通りだった。

――しかし、これで終わった訳ではなかった。
オーディオは底知れない沼である。
年間20回以上も生演奏を聴いている私には、オーディオ再生音と、生演奏の音との落差はなんとか埋めたいものだった。
使いこなしを様々に工夫し、良くなっては行き詰まり、長期の冬眠に入る。
復活して、思い切ったセッティングの改変を行い、劇的に良くなって、また行き詰まり、冬眠に入る。
――というサイクルを何度か繰り返した。
近年は、もう鳴らし始めから高値安定の高音質となっていたが、それでも私は気に入らなかった。

生の音の自然さに対して、再生音の曖昧さと質感の低さは、どうしても音楽鑑賞の妨げとなる。
曖昧な音で聴いても心地よいというバランスは存在するが、大画面高画質テレビになると画質のクォリティが余計に気になるのと似ている。
それに、良い音でCDを再生すると、演奏や曲に対する印象まで激変してしまうのだ。
オーディオの音質と音楽への理解度は、実は比例するのではないか、という恐ろしい考えが出てきた。
もう一段、音質を上げられないだろうか――もっと自然に、もっと軽やかに…

そんな時、エルサウンドのアンプが出川式電源の搭載に取り組んでおり、改造もしてくれると知って、思い切って改造を依頼したのが2019年の12月だった。
そのころ、山枡氏は既に長期入院中で、リハビリ生活をしていたのである。

改造を終えて自宅に帰ってきた改造EPMW-30は、期待通りの成果を発揮した。低音の充実と、全域に渡る透明度と立体感の向上が聞かれた。
ところが、バランスが変化した結果、何だか全体的に陰気なサウンドになってしまった。
これは、CDプレーヤーの陰気な面が出てきたものと判断した。
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我が家のCDPはデノンのDCD-S1である。
中古で購入後、今はなきイケオンで改造した。
(このセッティングも、見る人が見たら基地外沙汰だと分る筈だ。)
大変気難しいマシンで、購入当初は低重心でぼんやりした音しか出せなかった。

アンプの改造後、セッティングを細部まで見直した。
薄いクロロプレンゴム一枚でも音質は激変する。
2011年5月から長年愛用していた「ACCUREAD」すら、使用を止めてしまった。
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みるみるうちに、CDの音が開放的になった。

CD再生を諦める人も多いと思われる昨今だが、私はいまだにCD再生にこだわっている。
EPMW-30のゆるぎない中立な音質が、私の挑戦を支えている。
一例を挙げよう。
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先日も紹介したブーレーズの「火の鳥」全曲である。
ピエール・ブーレーズ ザ・コンプリート・ソニー・クラシカル・アルバム・コレクションの中の一枚だ。
そのままでDCD-S1で再生すると、なんともがっかりさせられる音だ。
以前にLPレコードで聴いた音に比べて、全然良くない。
悪い意味でCD臭い、音の粒子のザラザラした粗さを感じる音だ。

ところが、手をかけて鳴らしていくと、驚くほど音が激変する。
使いこなしの決め手は、石山製作所の携帯型徐電器、EST-Mだ。
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これを使って、あちらこちらの静電気を取っていくと、どんどん音が良くなっていく。
アンプはそのままで、CDとCDPだけに使って、大きな変化がある。
遂には、全くザラザラ感の無い、透明でクリアな音になった。
かつてLPで聴いた以上の音である。
CDの音には、まだまだ良くしていける可能性があるのだ。

演奏に対しての印象も変わった。
ブーレーズは、今日の指揮者達ほど神経質ではなく、むしろ音楽の勢いを大切にした人と考えているが、劇的に良くなった音質で「カスチュイ一党の凶悪な踊り」を聴くと、躍動感の中に静謐があるではないか。
ブーレーズという人の音感覚の鋭さに、改めて瞠目させられたのである。

これからまた、音楽鑑賞が楽しくなっていくという矢先に、アンプの設計者、山枡昌典氏は亡くなってしまった。
アンプの改造を直接手掛けたのはエーワイ電子の技術者だが、山枡氏生前の、最後の改造機だったかもしれない。
山枡氏のブランド「エルサウンド」のオーディオ機器は、胸を張って言える「プアマンズ・ハイエンド」である。
これから先も、遺作EPMW-30を中核としながら、CDによる音楽再生を極めていきたいと考えている。

山枡氏への感謝を込めて、日記を書きました。
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