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2021年04月17日20:59

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映画「約束の宇宙(そら)」

昨日、映画「約束の宇宙(そら)」の封切りを見て来ました。

宇宙飛行士と言う特殊な環境で働くシングルマザーと、その7歳の幼い娘との、ロケット打ち上げ迄の、親子の、お互いを想い合う余りぶつかり合い、愛しさも、寂しさも、経験し、成長して行く日々を描いた物語で、自身も幼い子供を持つアリス・ウィンクール女史が監督としてメガホンを取り、欧州宇宙機関(ESA)の協力により、ドイツ、ロシア、カザフスタンの宇宙関連施設で撮影を敢行し、宇宙飛行士の知られざる世界をドキュメンタリー風に、リアリティ溢(あふ)れる映像でスクリーンに表現した作品です。

母サラを演じたのは、実写映画『ダンボ』や、『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』で、子供から大人迄、世界中の観客を魅了したエヴァ・グリーン。そして、娘のステラは約300人の中からオーディションで選ばれたゼリー・ブーラン・レメル。チームリーダーの宇宙飛行士にマット・ディロン等、欧米の実力派俳優が集結し、英語、ロシア語、フランス語が縦横無尽に飛び交う国際色豊かな映画に成っています。更に、音楽は、世界で活躍する坂本龍一が担当しています。

粗筋は、

フランス人宇宙飛行士のサラ(エヴァ・グリーン)は、ドイツの欧州宇宙機関(ESA)で、長年の夢だった宇宙へ行く事を目指して、日々訓練に励んでいます。物理学者の夫トマス(ラース・アイディンガー)とは離婚し、7歳の幼い娘ステラ(ゼリー・ブーラン・レメル)と2人で暮らす彼女は、「プロキシマ」と名付けられたミッションのクルーに選ばれます。大喜びのサラでしたが、このミッションに旅立てば、約1年もの間、娘と離れ離れに成ります。ステラを残し宇宙へ飛び立つ迄に2ヶ月しか有りません。過酷な訓練の合間に、娘は母と「打ち上げ前に2人でロケットを見る」と約束します。果たして、母は約束を果たし、無事に宇宙へ飛び立てるのでしょうかーー。

本作は、宇宙飛行士達が地球を離れる為に、一体どの様な訓練を受けているのか?その労力と時間がどれ程、掛けられているのかという点で、過酷なトレーニング描写も多く、彼等の生活をドキュメンタリーの様にリアルに捉えているのも見所の1つですが、宇宙飛行士に興味の無い人に取っては、冗長で退屈なシーンかも知れません。

物語は、ステラを元夫に預ける事に成ったサラが電話やメール等で交信を続ける様子を描き、ミッション実施に向けての厳しい訓練が行われている様が、並行して映し出されて行きます。

母に会え無い日々が積もり、娘、ステラは、徐々にワガママに成って行きます。その心理的距離が遠のく程に、母親サラは訓練に集中出来無く成って行きます。心も体も疲弊し、そしてとうとう限界点に近づいて行きます。

それとは、対称的に娘、ステラは徐々に母と離れる時間の過ごし方を学んで行くのですが、それは「知らない間にステラが成長して行く」事を意味しています。

ステラは、不慣れな土地(父の家)に来て、転校した事で、更に孤独感を味います。そうした中で、果たされ無い約束に鬱憤(うつぷん)が積もって行きます。

この映画は、宇宙飛行士と言う特殊なケースを取り上げていますが、本質的なテーマは「親を理解してもらう為に必要な事」を描いていると言って良いと思います。

「子供は親の背中を見て育つ」と言う言葉は、最早、大家族時代の死語で、核家族社会の昨今は、実際に仕事をしている所を見せると言う事が大事なのかも知れません。

このコロナ禍で、自宅で仕事をするビジネスマンが増え、両親がどんな仕事をしているかを、多くの子供達が知る機会を得ました。第一生命保険が3月17日に行ったアンケート調査によれば、小学生男子の成りたい職業の一位は、「会社員」で、女子の一位は「パティシエ」だそうです。そして、中高生は、男女共「会社員」だそうです。

この結果は、これ迄は、ややもすると、母からの伝達(肯定も否定も含めて)や、ネット等の情報によって持っていた両親(特に男親)のイメージが、実際にその現場を見る事で視野が変化した物と受け止められています。

話が横道に逸れましたが、この映画のクライマックスは、母親サラが「隔離施設を抜け出して娘と一緒にロケット(の発射台)を見る」と言うシーンなのですが、ここにリアリティを求めるか、誇張としての作風と捉えるかで評価が分かれると思います。

出発前夜に施設から出て娘に会う事でサラは、自分の夢自体が規則違反で、ご破産に成るリスクを犯す訳ですが、そう言った危機には全く触れずに、無事に翌日の発射を迎えると言うのは、ストーリーとしては、少し都合が良すぎる気がします。(笑)

この映画を見て、私は、女性宇宙飛行士の現状が知りたく成り、調べて見ました。以下は、その調査結果です。

宇宙に行った事が有る人間は、これ迄に全世界総勢で、564人、その内、女性は65人です。

最初に周回軌道に乗った女性は、旧ソヴィエト連邦(現、ロシア)の宇宙飛行士、ワレンチナ・テレシコワ女史で、1963年(人類初のガガーリンの宇宙飛行から僅か2年後)と言う早い時期の事でした。

「ウォストーク6号」で単独飛行したテレシコワ女史は.しかし、十分な訓練を積んでい無かった為に、約 71 時間の宇宙飛行中に肉体的、精神的に苦しんだと伝えられ、ソ連の宇宙計画責任者は「二度と女性を宇宙へ送ら無い」と怒ったとも言われています。結果として、二人目の女性宇宙飛行士 S・サビツカヤ女史が宇宙に向かったのは、テレシコワ女史の飛行から何と20年後の事でした。

従来、米国の「ジェミニ」や「アポロ」にしても,それ迄の1960〜70年代の宇宙船は打ち上げ時に、体重の5倍もの重力が掛かり、地球に戻る大気圏突入時には、7倍の重力が掛かった為、戦闘機のテスト・パイロットとして厳しい訓練を積んだ鉄人の様な体力を持つ男性が、宇宙飛行士にふさわしいとして、選抜されて来ました。

所が、1980年代にスペース・シャトルが登場すると、打ち上げ時に体に掛かる重力を3倍(戦闘機が宙返りした時に掛かる重力と同等)に迄、減らす事が出来、女性や高齢者でも宇宙飛行が可能に成りました。スペース・シャトルは、女性宇宙飛行士の本格的な誕生に大きな貢献をしたと言える訳です。

ライバルのアメリカが、女性宇宙飛行士誕生でソ連に追いつくのには、20年もの歳月が掛かりました。スペース・シャトルの登場により、女性としては史上3人目で、アメリカ人女性としては、初の宇宙飛行士に成った、サリー・ライド女史が宇宙に向かったのは、1983年の事でした。当時のマスコミは出発前のライド氏に、ミッション中に化粧をするのか、フライトシミュレーターに不具合が生じた際に泣いたのか等の興味本位の質問をしました。

英エディンバラ大学産婦人科センターで、NASA(米国航空宇宙局)と共同で宇宙に於ける女性の健康について調べているヴァルシャ・ジャイン博士は、過去10年に渡り、本来の研究の傍らで宇宙婦人科医としても研究を重ねて来ましたが、BBCラジオ5ライブの「エマ・バーネット・ショー」に出演し、宇宙が人体に及ぼす影響に付いて以下の様に語っています。

「宇宙環境への順応全般については、男性も女性もほとんど同じですが、いくつか違いが有ります。女性は宇宙へ行く時に、男性は地球へ帰って来る時に、気分が悪く成りがちです。男性は宇宙から戻る際に視覚や聴覚に影響が出ますが、女性には、こうした症状は出ません。一方で帰還後の女性は血圧が調整しづらく成り、ふらふらし易く成ります。こうした微妙な違いは有りますが、それがホルモンの違いから来るのか、生理学的な違いによる物なのかは、分かりません。長期的に見れば、こうした違いを理解する事で地球上での健康への理解の助けにも成るでしょう。

サリー・ライド女史がアメリカ女性として初めて宇宙に行った際、NASAには宇宙では女性の月経がどう成るのか、それにどう対処すれば良いのかと言う疑問が有りました。エンジニア達は(男社会なので)、生理用品がどれ位、必要なの分からず、最初は1週間に必要なタンポンの数を100個や200個と試算していました。(笑) 勿論、その後すぐ、いやそんなには必要無いと言う結論に至りましたが。現在では、ほとんどの女性宇宙飛行士が飛行前に避妊ピルを服用して生理を止めています。健康体なので、それが安全なのです。」

因みに、ジャイン博士の研究の中には、子宮内避妊用具等、生理を止める他の方法を調査し、より効果的な手段を探ると言う物も有ります。

国際宇宙ステーションにはトイレが2つ有りますが、エンジニアは、当初、血液を考慮していませんでした。宇宙では尿は再利用され、飲み水も抽出されます。しかし生理中の血液は固体と見なされ、宇宙ステーションのトイレには液体の中から固体を分離する機能が無い事から、女性の尿は再利用されません。洗濯に使える水の量も限られているので、宇宙旅行中に生理に成ると、衛生面で色々と大変です。

宇宙に行く事が宇宙飛行士の生殖機能に及ぼす明らか且つ実証可能な影響は有りません。男性も女性も、宇宙ミッションの後に子供をもうけています。一方で、女性宇宙飛行士の最初のミッション時の平均年齢は38歳です。宇宙飛行士は宇宙で放射能を浴びるリスクを負っています。これが女性の生殖能力にどう影響するのかは、まだ分かっていません。男性については、宇宙へ行っている間に精子の数や質が下がる事が分かっていますが、地球に戻れば元に戻るので、長期的なダメージについては分かりません。女性は生まれた時に全ての卵子を持って生まれるので、NASAは宇宙ミッション前に女性宇宙飛行士が卵子を凍結する事について非常に協力的です。

ここ迄から分かる様に、1970年頃迄は、宇宙に於ける女性は少数派で有り、しばしば差別的発言も見られましたが、技術の進化に伴い、現在は、多くの女性宇宙飛行士が誕生しています。 軍出身の人もいれば、エンジニア、医師、研究者等、様々で、総勢40名程の内、十数名は出産も経験しています。搭乗メンバーを決める際も子供がいる事はハンディに成る事は無く、米国女性は、出産後、すぐに 仕事に復帰する人が多いのでNASAには託児所も有る程、サポート体制が整っています。

一方、日本では、女性宇宙飛行士は、まだ向井千秋、山崎直子両女史のみで有り,ロシアでも女性宇宙飛行経験者は3人です。山崎女史が宇宙飛行候補者の選抜試験を受けた時の応募者数を見ても、864人の内、女性の応募は1 割程度だったそうです。この様に、日本に於いて、女性宇宙飛行士は、まだまだ少数派で有ると言えますが、山崎女史は、訓練の大変さは女性も男性も変わら無いと言います。女性は男性に比べると、体力的なハンディは確かに有り、体力を使う船外訓練、重いバックパックを背負って山道を歩く訓練では体力的負担も大きかったが、無重力空間で有る宇宙で働くには、ある一定の基礎体力と持久力が有れば、体力の差はハンディには成ら無い。実際に宇宙に行って見て、ミッションをこなし、女性も普通に働けると思ったと言うのが彼女の感想です。

前述の宇宙ステーションで尿をリサイクルして飲み水に変える件に付いても、生理の時は、リサイクル水に血が混じってしまわ無い様に、布製のフィルターを1枚かませれば、血液除去が出来、リサイクル出来る様に今では、改良されているそうです。この様に現在では女性でも十分に宇宙で滞在出来る様な状況では有りますが、他にも仕事以外の事、家庭、出産の時期、そして育児に関しては、女性は男性よりも考えなくてはいけない事が沢山有ります。

山崎女史も、日本から派遣されている身としては赴任中に産休や育児休暇が取れるのか前例が無く、「子供を生んだらミッションが遠ざかる」と言う気持ちが有ったそうです。体を酷使するサバイバル訓練や船外活動が控えている時に妊娠すると、訓練のスケジュールが変わり、多くの人に迷惑が掛かる為、訓練スケジュールと宇宙飛行、両方を見極めて妊娠の計画を立てなければ成らず、子供の教育等も海外勤務する人達の共通の悩みですが、ただ一般的な海外赴任で有れば大体3〜5年程度の期限が決まっていて、終われば帰国と言う予定が見えるますが、宇宙飛行士はアメリカでの生活が何年に成るか全く分から無い為、日本とアメリカのどちらに軸足を置くのか、中々決められなかったと山崎女史は告白しています。

家族と言う存在が有りながら、長いマラソンを走り続ける道のりは、人生で何が大事か、優先順位を付ける事の連続でしょう。

映画「約束の宇宙」は、この点を問題提起している映画でも有ります。

写真は左から映画「約束の宇宙」のポスター、女性初の宇宙飛行士、ソ連のテレシコワ女史、日本の女性宇宙飛行士、山崎直子女史です。
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