mixiユーザー(id:25447723)

2020年05月27日13:43

97 view

ショート・ミステリー(7)男と女

その男は女を見る目は厳しく、かなり厳選した女性しか愛さないのであるが、奇妙な癖があった。

これは!と思った女には結構積極的にアプローチしていくのであるが、その女がその男を愛し始めた途端にその女への興味を失ってしまうことであった。

男には多かれ少なかれそういう特徴があるのかも知れないが、その男の場合は極端で限度を超えていた。
それは動物的とか生理学的とかで説明できるものではなく、むしろ物理学、電磁気学に近いとも言える程であった。

モーターが回転する原理は、磁場内で回転子が反転する度に電流の方向が変わり、逆向きのF(力)が与えられる為であるが、その男の場合も、磁石のように互いに引き合ったら最後、急に反転してしまうのである。

そんな訳で、その男に捨てられた女は何人かいて、中には自殺未遂まで犯した女もいた。

そんな男がある女を愛し始めた。
その女はその男の癖をよく知っていたので最初は嫌がったが、男のアプローチが巧妙なので段々とその男を愛し始めた。
しかし、決してその男を愛した素振りを見せなかった。

男はそんな女に益々惹かれるようになり、あの手この手でその女を口説き続け、ついには結婚にまで漕ぎ付けた。

女は結婚後も決して態度を変えようとはしなかったが、結婚生活はその緊張感が良い方向に作用したのか?男は女を愛し続け、円満に推移していった。

しかし結婚後何十年か経った頃、女は重い病を患ってしまった。

男は献身的に看病したが、女の病は回復せず、余命幾ばくもない状態となった。

男は女のベットのそばで女の手を握りながら囁いた。

「早く良くなってくれよ。君がいないと僕は生きられないよ、、」
「しかし、僕はこんなに君を愛しているのに、君は今まで一度も僕を愛しているとは言わなかったね」

人は普段の生活では様々な理由で仮面を被って生きることがあったとしても、死の前には本当のことを言うものである。

女は、

「なに言ってるのよ、バカね!私は結婚する前からずっとあなたのことを心から愛していたのよ。
だって、愛してもいないのに結婚するわけないでしょう?
でも、とても幸せな人生だったわ、あがとう、愛してる、、、」

とは言わなかった。

女は自分が死んだ後に男の気持ちが離れることを恐れたのである。

しばらく無言の時が経った。

女は最後に一言だけ言った。

「そうね、いつの日かあなたが私の棲むあの世に来たら、愛してる!といってあげる」












5 9

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する