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2020年07月24日21:04

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「連邦区マドリード」

読書日記
「連邦区マドリード」
J.J.アルマス・マルセロ作
(水声社)

ポロックを真似る画家「私」のまわりに徘徊する夢破れた人々。一流の映画監督を目指して挫折する男。人々の運命を操る伝説の大佐。うねるように繰り返すマドリードの悪夢。

主人公の「私」をはじめ、画家、音楽家、映画監督、踊り子など。登場する多くの芸術家は皆一流を夢見ているが花ひらかずに終わる。なかでも自作映画の主役を依頼しようとスティーブ・マックィーンに会いに行ったり、作品の映画化を画策してポール・ボウルズに会いにいっては断られ、全て挫折する男。妻にも逃げられ酒と薬に溺れて齢を重ねるこの男が作品の色調を決めていている。いい味がある。

結局男は全員小物であり、全てにおいて失敗するのである。女は魅力的な女ばかりだが、するりと男を乗り換えて世渡りを繰り返していて男たちの手には負えない。結局、語り手の「私」と映画に挫折した男の妄想と執念を延々聞かされているのだ。

匂うような、まといつくような、汗かきのねっとりとした文体で、同じことがこれでもかと繰り返し描写され、長編でありながらほとんど物語が進行することはない。巻き起こることは全て伝説の男の仕組んだ運命の操作だとするも、裏付けがあるわけでもなく、不思議なことが描かれているのはそれだけなのに、作品全体から発酵する空気と舌触りはまるで幻想文学の味わいであるという不思議な作品。
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