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2020年06月16日21:09

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「郵便局と蛇」

読書日記
「郵便局と蛇」
A・E・コッパード 作
(ちくま文庫)

寓話・ファンタジーから怪奇編まで、独特の味わいを持つ幻想短編集。

文庫本巻末の小伝によると、作者コッパードは仕立屋職人の家に生まれ、様々な職業を転々としながら成長するにしたがって小説を書き始めた人。ろくに学校に行っていないし、文化的な素養のある人々との交流も人生後半になってからである。投稿と落選をくり返すうち執念が実って世にでることとなるが、それが上質の幻想文学だからたいしたものだ。実に階層と才能は無関係だ。巧拙がよくわからない晦渋な修辞ということだが、情景描写などなかなかに凝っていて味わい深い。

「ポリー・モーガン」:ふと犯した間違いが負い目となって、やがて幽霊を見ることになる女性。幽霊自体はかそけき風が窓を揺らすくらいだが、それが彼女にとっては幽霊となる。人間心理の複雑で悲しい作用を描いた傑作。幽霊譚として一級品の出来。

「シオンへの行進」:放浪する修道士と世界の王に会うために旅を続ける男ミカエル。この修道士が曲者で、悪人を簡単に殺すし倫理観がない。やがて同行する流浪のクリスチャン女性がまったく浮世離れしていて彼らはついていけない。キリスト教と付かず離れずにいた作者のポジションが垣間見える。

「幼子は迷いけり」:両親に溺愛されながらも、幼い頃から積極的になにかに興味を持つことのない少年。主体的になにもしようとしないまま、成人すると酒浸りなっていくが、それだけでなんの解決もない。

「王女と太鼓」:鳥獲りの老人に育てられた孤児の少年は、ついに決意して巣立ちする。旅先で巨人に出会い、幽閉された王女を見張るようにと鍵を渡されるが、王女は取り巻きの悪意で女王になることが出来ず、やたら太鼓をたたいて日々を過ごすのだった。少年の巣立ちは失敗する。
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