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2020年05月25日20:59

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「チョンキンマンションのボスは知っている」

読書日記
「チョンキンマンションのボスは知っている」
小川さやか 著
(春秋社)

遥かアフリカから単身香港へ渡航して稼ぐタンザニアブローカー達。その融通無碍なコミュニティと独特な経済システムを追いかけた人類学的ルポ。

香港のチョンキンマンションは店舗と格安ホテルが合体したカオス的な場所として有名なようだ。多人種が入り乱れて生活する中、近年アフリカからの出稼ぎも多く、ここに集うタンザニア人達は皆ブローカーで、香港から故郷へ中古車やケータイなどを売って稼ぐ。長年タンザニアでの研究を続けている著者が体験したマンションのボス的人物との交流記録。

彼らは組合的な互助組織を持っていて、例えば仮に不幸にして仲間が亡くなっても遺体は確実に故郷タンザニアへ送り届けられる。困窮して倒れても「自己責任」で済まされることはない。これは彼らの身分が非常に不安定で法的にはグレーな者も多く、いつ零落して病死してもおかしくない運命ゆえであろう。明日はわが身であることがひしひしと感じられるからこそ、助け合いもあるのだろう。

彼らどうしの取引は確固たる資本主義経済でも贈与交換経済でもない不思議なもの。
安定して香港にとどまっている者が少なく、いつ誰がどこへ動くかわからないという条件があるため、厳密な貸し借りの経済がなく、コミュニティの中で自分が与えた分は誰かに返して貰えば良いという考えだ。あまり個人の事情を詮索しないゆるい繋がりだが確実に繋がっているというコミュニティで、ここには最低でも安心があり、ある種うらやましい社会かもしれない。

仕事の交流の中心にSNSがあるが、別に商売の話ではない日常的な話題が常にあり、商売に特化したシステムに発展しないところがおもしろい。遊んでいるような働いているような全人的な営みを崩さないのがよい。

大きくみればこれらの特徴は多くの移民社会で同じようにあったことかもしれないが、開拓者として根付くのではなく、個人ブローカーとして漂っているところが特殊だ。
なにより著者が研究者で経済人類学的目線で書かれているのがこのエッセイのおもしろさ。一般ルポライターではこうは書かないだろう。

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