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2020年03月16日20:41

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「きりぎりす」

読書日記
「きりぎりす」
太宰治 作
(新潮文庫)

私小説から女性告白体まで、著者中期の多彩な方法で書かれた傑作短編を収録。

これこれ。私がかなり以前に読んで、その面白さにセリフまで覚えた新潮文庫の短編集。
太宰といえば一般的には苦悩に満ちた私小説作家で、その自身を追い詰めるような赤裸々な表現が愛されまた嫌われている印象があるが、私はあまりそういう読後感を持たない。といっても新潮文庫で有名なものを5〜6冊読んだくらいであるが、私小説と言ってもきちんと推敲され意図的に書かれているし、しっかり演出・構成されたものなので十分に楽しむことができる。自分を卑下し大げさに嘆き苦しむとしても腕がいる。客(読者)に出すわけだから、採れたてそのままのように見えても料理人の技術がなければ成り立たない。

このストーリーテラー・語り部としての才能はこの短編集にも存分に生かされていて、私小説スタイルのものはユーモラスな身辺雑記・旅行記などであり、自身を離れた設定のものは見事な物語で極上の味わいがある。「皮膚と心」「水仙」「きりぎりす」など名品と思う。

「皮膚と心」:女性告白体の逸品。「こんなところに、グリグリができてえ」というセリフが好き。作中登場する図案工は資生堂のマークなどを手がけた山名文夫をモデルとしているようだが、なぜこんな下町のアンチャンみたいな口調なのだろう?

「水仙」「きりぎりす」:どちらも絵描き設定で天才と凡人の問題を極端な例を作って表現。ヒヤリとするものがある。売れて堕落するか、売れないで破滅するか…。
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