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2020年03月09日20:59

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「草枕」

読書日記
「草枕」
夏目漱石 作
(新潮文庫)

「猫」と同じく若き漱石の初期作品。
人里離れた山あいの誰も客の来ない温泉宿に投宿した画家。画題を求めて散策するも一向に絵を描く気配はない。それより宿に暮らす謎の女性が気になるところだ。

旅館の出戻り娘の性格が不思議で、この時代の女性にしては珍しく堂々として主体性があり、世間体を気にしない。青年画家をのんでかかるような態度であり、この女性を描いたことで単なる青年画家の若気のエッセイを超えて作品の幅が生まれている。こんな女が相手では虚無を気取って見せるわけにもいくまい。しかし漱石がなぜこの人物を造形したのかはわからない。

青年画家は始終世の中や人生について嘆息しているが、これを作者の分身と考えても齢相応な現象だと思う。ところで漱石ならずともこの時代の文人は基本的に漢籍の素養があり、この作品にもやたら漢詩からの引用がある。注釈抜きで読んでわかるものではないが、素人目線でいうと同じようなことを様々に言い換えていてどうしても大仰な印象だ。その後の漱石の理想が「則天去私」であるので、どうしてもそこへ向かって言葉が揃ってくるのかもしれない。

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