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2020年02月28日20:54

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「回遊人」

読書日記
「回遊人」
吉村萬壱
 作
(徳間文庫)

もし人生を10年ごとに過去へ戻ってやり直せたら果たして幸福だろうか?
少しずつ歯車が狂っていく不気味だが現実的な世界。

パラレルワールドを描いた作品は数多あれど、この作品は読んでいてSF小説を楽しむような余裕はまるでなくて、ただただ暗澹たる泥沼の世界に堕ちてゆくばかりだ。他人事でない。それというのも主人公の男(小説家)が至って小人物であり、女の体のことばかり考えているけっして正義漢でもない平凡な人間だからだ。

話の導入はぶすぶすとくすぶる夫婦間のよくある感情のすれちがいで、ここまではまだ日常であるが、舞台が女郎街やドヤ街がある底辺地区に移行するや俄然おもしろくなってくる。いよいよ日常を離れて過去へと戻り10年前からやり直すのだが、元妻とは別の女性と暮らすことになっても、未来から盗作した作品がベストセラーになっても、未来を知った上でのやり直した行為というものはしょせん心の晴れがましさはないのではないか。少しずつ行き詰まって行く出来事も、結局はすべて本人の人格が招いた結果なのだ。

人間の執着はどうしても悪い方へ悪い方へと人を導く。この執着自体が間違っているのだろうか。まあそうなんだろうけど、必ずしもそんなテーマがあるわけではなく、ストーリーで読ませる話でありながら専らリアリズムが顔を出す、そんな悲しい小説なのかもしれない…。
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