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2019年12月11日14:17

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2019年印象に残った新書 政治・外交

 年も押し迫ってきて、今年読んだ本についてもまとめておかなければいけない。2019年も一年を通じてよく本を読むことができた。読んだ本=冊数というくくりでは、読みやすいものとそうでない学術書も同じ一冊でカウントされるため、ここで示すことはしないけれど、ここの日記をみる限り、新書を中心に買った本はほとんど目を通している。要するに積読率が低かった。

 「この年の三冊」みたいな感じで書ければいいのだけれど、読んだ本のクオリティはどれも高いし、読了後の感想はあくまで個人の意識に依存するので、なかなかそれもできない。

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 2019年は、春に統一地方選、夏に参院選が行われる選挙イヤーでもあった。このなかでも安倍政権は続き、通算で歴代最長の内閣を更新することになっている。

・中北浩爾『自公政権とは何か』(ちくま新書、2019年)
…この安倍政権の「強さ」については、いろいろな分析があるけれども、新書としては中北浩爾『自公政権とは何か』(ちくま新書、2019年)に詳しい。自公連立の歴史を振り返ることで、その安定性がどのように生まれたのかを選挙の仕組みと関連させて説明している。1990年代の選挙制度改革で導入された、衆院の小選挙区比例代表並立制は、二大政党制を実現させるように映ったものの、実際には「二大ブロック多党制」というかたちにとどまった。
 新進党や旧民主党が、連立相手に比較多数であることを理由にイニチアチブをとりたがったのもまた、二大政党制を念頭に置いていたからだけれども、実際に非自民勢力の結集はうまくいかず、かえって少数党からの離反を招いた。これに対して自民党は、公明党に対してポストや政策面で譲歩することが多かった。単独では過半数をとれなくなった自民党にとって、公明党の協力は議席数以上の存在感があったからともいえる。
 もっとも、この自公の協力関係も、最初からうまくいっていたわけではない。両党とも、当初は内部で反発も根強かった。しかし、公明党にとって最も政策的に遠い小泉政権時にも、選挙で勝ち続けたことが、現在にまで至る関係性を決定づけた。

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・曽我謙悟『日本の地方政府』(中公新書、2019年)
…春の統一地方選は、ほとんどの地域で最低投票率を更新してしまった。そこには自治体に対する有権者の無関心が横たわっているからともいえる。
 曽我謙悟『日本の地方政府』(中公新書、2019年)は、自治体の実状を概観しつつ、都道府県、市区町村、各地域ごとに課題が異なるにもかかわらず、制度がそれにおいついていない点を指摘している。近年でも地方分権改革や市町村の合併(平成の大合併)が行われてきたものの、地方議会選などは手つかずだったり、通勤や通学、あるいは医療や福祉サービスについても複数の自治体をまたいでいる現状と公共のマネジメントがかみ合わなかったりするなど、課題だらけである。それらを弥縫策、すなわち、一時的に取り繕うことを繰り返すことで、システム的にも複雑になってしまっている。
 自治体を人口というモノサシで捉えようとするあまり、そこで暮らす人たちの移動、生活スタイルとのズレが大きくなっている。こうした問題の受け皿として、この本では地方において政党がもっと存在感を示すべきと提言している。
 この本に関連するものとして、辻陽『日本の地方議会』(中公新書、2019年)も出版されている。これは地方議会、地方議員の現状を解説したものだ。

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・山内昌之・細谷雄一編『日本近現代史講義』(中公新書、2019年)
…タイトルからは歴史にカテゴリーしてもいい本だけれど、内容としては近現代の外交、とりわけ東アジアとの関わりについて、それぞれの専門家が各章を担当している。逆に、政党や労働運動、社会問題などはほとんど扱われていない。
 注目すべき点としては、この本が自民党本部で行われた勉強会をもとにしているところだ。すなわち、いまの政府や与党が近現代の外交について何を問題としているかが、この内容から浮かび上がってくる。
 今年も、中国や韓国、北朝鮮とは国境や歴史問題が外交関係に影響した。過去の経緯を理解していくことが、外交において夜郎自大とならない重要なポイントであることは言うまでもない。執筆陣も、実証的な研究を行っている研究者ばかりで、これが外交史的なスタンダードとなればいいと個人的にも思っている。

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・前田健太郎『女性のいない民主主義』(岩波新書、2019年)
…ジェンダーというと、何だかとっつきにくい印象があったけれども、政治学的に民主主義のなかで女性のあり方を考察しているこの本は、私にそれまでとは異なる考え方、視点があることに気づかせてくれた。
 夫婦の共働きが当たり前のようになり、社会においてもその存在感を高めている女性が増えている一方で、議員の数は世界的にみても決して多いわけではない。また、たとえば女性の社会参加と労働・福祉政策は、一見すると親和性の高いもののように思えるけれど、これらは長らく相性が悪かった。なぜなら、労働や福祉の枠組みが「女性は家庭にあるもの」を前提として設計されていたからである。近代以降、女性運動もまたそのなかで揺らぎをみせてきたし、現代もまたその影響は残っている。
 この本では、「ジェンダー論とはかくあるべし」といったようなものではなく、既存のデータをもとに、政治や社会の場における女性について分析を行っている。非常に示唆に富んだ指摘も含まれており、これからの社会問題を考える上でも議論の土台となり得る一冊といえよう。

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