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2019年10月20日12:39

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意思なき意志 〜未来への道標〜 『ブレスオブファイア』より

それは寂しい空だったのか。
マッスルとの死闘を終えて再び地に降り立ったリュウ、ニーナ、ギリアム。
見上げんばかりの物言わぬ巨人はそんな戦いがあったことなど知る由もないとばかりにただ立ち尽くすだけだった。
実際、何も知らないのだろう。意思があるのか、それとも無いのか。それすらも分からない……伝説にその存在が残るだけの巨大な像。
人々が巨人と呼び、心のどこかではこの地のシンボルとしてきたその像は果たして命の容れ物なのか。
巨人という存在があったのだとしても、それは果たして『生きていた』と言えるのか。
きっと誰にも分からない。
だが。

ズシン……ッ。

巨人は1歩、足を前に踏み出した。
自分は村を1つ破壊した。その気があったわけではない。そう言われたからそうしたというだけの、ただそれだけのこと。
そこに正義も悪もない。
ただの行動。ただの日常。ただの……。
いや。
そもそも自分とはいったい何なのだ。自分はここに居るのか。それとも在るのか。
生きているのか死んでいるのか、それすらも分からない。
分からないのに、感情などあるはずもないのに……なのに憂鬱な空気を巨人は感じていた。嘆き。悲しみ。恨み。
そう。自分がいま見下ろしている1つの村。
トトールと呼ばれていた村は今はもう無い。ほとんどの者が川岸の村へと出向いていたから死者はほとんど出なかったが、それでも彼らが帰るべき場所を巨人は奪ってしまった。
その者たちの感情が、心を有しない巨人に絶え間なく降り注いでいるのだ。
「……………」
言葉はない。
そもそも巨人に『話す』という機能は無かった。だから謝ることは出来ない。
ズシンっ。ズシンっ。
巨人は歩き出す。
自分に居るべき場所はない。仲間もいない。故郷もない。
何かを壊すことでしか役にたてない自分は今この場所では何の意味もない存在なのだ。
「巨人……さん?」
ニーナは呟くように言った。
風が頬を撫でる。
1歩、また1歩と遠ざかる巨人の背中はどこか寂しそうで、郷愁に近いものをニーナは感じていた。
巨人の向かう先には大きな山があった。巨人よりもさらに大きな山脈だが活火山であり、ときには麓の村などに甚大な被害を及ぼす。
そして、その山の先には黒竜族が破壊した橋がある。
リュウたちが行くべき南の地。
黒竜族の本拠である帝都へ行くための唯一の道標。色々と回り道をしたけれど、いよいよこの橋の問題さえ片付けばリュウたちの旅は佳境を迎えるのだ。
巨人の歩みはゆっくりだった。だが止まることはなかった。一途に、ひたむきに、1歩、1歩と澱まぬ歩みがどこか意志のようなものすら感じさせた。
どこへ行くというのだろう。
思い出したように溶岩を噴き上げ、そのつもりはないのに人々を苦しめてしまう山という存在に、自分に近いモノを感じているのだろうか。だから巨人の足は山へと向かっているのだろうか。それともただの偶然で、巨人にとっては歩いているというわけではないのだろうか。
空はひどく青かった。
希望に満ちているようだった。
巨人が空を見上げることはないが、感じることは出来ていた。
心など無いのに。感情など無いのに。
それでも巨人は自分にできる唯一の、そして最後の行動を起こそうとしていた。
(まさか……)
リュウは胸がざわつくのを感じた。
あまりに強大な力ゆえに、その力を封印した白竜族の少年、リュウ。
彼もまた世界に災いを導く者の1人である。その事実がリュウと巨人を心のどこかで結びつける。だから巨人がしようとしていることも不思議に分かってしまった。
「待ってくれ!」
リュウは叫んだ。
そして走り出す。だが間に合わない。巨人の1歩はリュウのそれより遥かに大きく、とても簡単に追いつけるものではなかった。
巨人が山へと入っていく。リュウの後を追ってニーナとギリアムも駆け出すが、やはり追いつけるものではない。巨人の行動を……その最後の『意志』をただ見届けることしか出来なかった。
ほどなくして巨人は山頂へと辿りついた。
活火山であるこの山は神が住むとも悪魔が潜むとも言われていたが、それは人々が自分たちではとても及ばない自然の力を神聖視するがゆえのことだ。巨人から見れば火山はしょせん火山でしかない。

それは人に害なすものなのかもしれない。
絶望をもたらすものなのかもしれない。

しかし、それならば自分も同じだろう。目的も意志もなく破壊するだけの自分と、思い出したように溶岩を噴き上げる火山と、人々から見ていったい何が違うのか。
きっと何も変わらない。
ならばここで終わるべきなのだ。
自分に命というものがあるのだとしたら、それを使い尽くすべきは今なのだ。
「………………」
巨人は火口へと沈んでいく。
なみなみと溢れそうになっていた溶岩は、巨人が入っていく重みで少しずつ溢れ出し、やがては濁流となって明確な熱気の奔流を作り出した。
「何を!?」
ギリアムはまだどういうことなのか分かっていなかった。ニーナも同じだった。
だがリュウは……この白竜族の少年だけは巨人の意志を感じとっていた。
行け、と。
自分の骸を超えて先へ進め、と。
「………っ……」
山を駆け下りた溶岩は、そのまま導かれるように川を侵食し、たちまち川の水を蒸発させていった。川底にいくつものクレーターのような大穴を作り、湖から流れてくる水をも堰き止める高熱の防壁を築いていた。
橋は壊れている。
だが、その下を流れる水はない。溶岩の熱が水の侵入を防いでいるからだ。
熱が引くにはまだ少し時間がかかるだろうが、しばらくは川は川として機能しないだろう。そしてその間ならばリュウたちは南へ行くことが出来る。川を渡り、南の地へ。そして帝都へと。

「サ、ヨ……ナ………ラ」

声が聞こえた。
それは誰の声でもなかった。リュウでも、ニーナでも、ギリアムでもなかった。
だが確かに聞こえたのだ。
気のせいだと笑われようが、幻聴だと諭されようが、それは確かに声だった。誰もが聞いたことのない巨人の、声だった。
「巨人さん。さよなら、って言ったわ」
誰に言うでもなくニーナは言った。
「ええ。聞こえました。私にも」
呟くようにギリアムは言った。
巨人の姿はもう見えない。あの見上げんばかりに大きかった巨人は火口に沈み、その姿はもうどこにもない。
だが確かに『彼』はいたのだ。
1歩を踏み出す足に感じる大地の力強い感触がその証だった。
この1歩は明日への1歩だ。黒竜族の野望を打ち砕くための未来への1歩だ。
しかし、それは巨人が切り開いてくれた意志ある勇気なくしてありえなかったのだ。そのことが巨人の存在の確かな証明だった。
「行こう。これ以上、過ちを繰り返さないために」
静かに、けれど決然とリュウは言い放つ。
かつて、とある女神をめぐって世界を滅ぼしかけた白竜族と黒竜族。その悔恨があるからこそ白竜族は自らの竜の力を封印し、静かに生きていくことを選んだ。
だが、かつてのあの過ちを黒竜族が再び繰り返そうとしているのなら、それは止めねばならない。
姉の行方を捜すことも重要だったが、リュウはこれまでの旅で黒竜族の野望は確実に進んでしまっていることを実感していた。
だからリュウは歩き続ける。
姉が決死の思いで守ってくれたこの命で、巨人が切り開いてくれたこの道を歩き続けるのだ。

それこそが白竜族の少年の心に宿る揺るぎない決意なのだから。





★☆★☆MEMO★☆★☆
SFC用ゲーム『ブレスオブファイア 竜の戦士』より。
多分、前半屈指の名シーンである巨人の最期。本編でもカットインが入るとか、スタッフがかなりの力を入れたであろうシーンであります。


自分の意志はほぼ無く、ただの存在でしかない巨人。
それを巡ってリュウたちと黒竜族の間で、結果として奪い合いのような状態になり、結局は村を1つ壊してしまう。
そのことに対する後悔。自分はいない方がいいのだろうという葛藤。
意志がほとんど働かない巨人だからの薄い感情の揺れ動きが、最後の火山へ沈んでいく決意につながっていったのだろうと思われる。
何かこれ『ラピュタ』とか『ナウシカ』とかに通じてると思うんですよ。自分はただ静かにそこにいたいだけなのに、巨人を利用しようとする者が自分を悪の存在へとしていく。
けれど抗う方法が特にない、みたいな感じが。
後はこの頃ときどき言われていた環境破壊問題とかですかね。
当時は特に酸性雨問題がよく取り上げられていて、これらは今をもっても解決しているわけではない問題ですが、そうしたものを子どもたちにゲームを通じて少しでいいから感じて欲しかった、とかじゃないのかなあ、と。
まぁ、結局のところはリュウたちも巨人を使っているわけだから別段、リュウたちが正しかった、というわけでもないんですけども。


ゲーム的に言えば、メインの敵である黒竜族がビミョーにセコいんで、こういうシーンが良くなってきてしまうのかもしれないデス。
黒竜族の長、ゾーゴンを倒すことと行方不明の姉を捜すことが現時点での旅の目的だけど、ここまで進めてもこの2人の状況はまったく不明。
姉のセイラは優秀な魔法の使い手(という設定)ですが、オープニングイベントで黒竜族に拉致られてからは生死不明(リュウ自身は殺されたと思っている)だけど……何かしらで登場するには違いなく、それならばそろそろ何かの伏線があっても良くないですか?
あるいは黒竜族の実質的ナンバー2であるジュダスをちょっと出すとか。

いや。まぁ、そこまでの期待は抱いてないんですがw
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