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2020年04月02日21:26

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「ペスト」 1947年 アルベール・カミュ著

センチメンタルで懐疑的だった十代の頃、私はカミュの文学に出会って孤立する勇気と反抗する事の正義を学んだ。
真の中立と寛容さは、精神的孤独と社会的孤立を招くものだが、それゆえカミュの文学は私にとって一筋の光であった。

あの頃の私にとってカミュは圧倒的に正しかった。
…そして今現在に於いてもカミュは全くもって正しい。

私がこの世に生を享ける10年も前に、アルベール・カミュは46歳という若さで忽然とこの世を去った。(※注1)
しかし他の夭折した天才達の作品と同じく彼の残した文学は永遠である。

考えてみれば私に今まで精神的な糧を授けてくれた偉大な作家や芸術家達の殆どは、
私が生まれる以前の昔に、あるいは私に物心が付くよりも早くに、皆この世を去ってしまっていた。
そのせいか私の精神的基盤は、生きている人間からよりも既に死んでしまっている過去の人間の遺言によってかたち作られてきた、というような奇妙な感覚が今も残っている。

数年前、ボブ・ディランがノーベル文学賞の受賞スピーチにおいて、
「・・・キプリング、ショー、トーマス・マン、パール・バック、アルベール・カミュ、ヘミングウェイなどの偉大な人々と共に名を連ねることは、言葉では言い表せないほど光栄なことです。」と述べた時、私はTV画面を通してアルベール・カミュの名を久しぶりに聞いた。

そして今日再び“新型コロナウイルスの蔓延”の猛威に際してこの偉大な哲学者でありヒューマニストの代表作を想起せずにはいられないのだ。

アルベール・カミュの代表作である長編小説「ペスト」が今話題になり売れているらしい。(文庫本、電子書籍共に)

小説「ペスト」を思い返す時、私は今現在この瞬間も実際に世界中の彼方此方で闘っている無名の“現代のリウー医師達”が数多くいる事を心から信じることが出来る。

歴史とは、世界とは、自然とは、実に不条理なものの繰り返しである。

大災害や疫病蔓延の渦中に自分自身が巻き込まれれば尚更それを実感する事となる。

しかし人間は窮地に追い込まれれば追い込まれる程、かえって誠実に生きることが出来ることも又真実なのである。・・・リウー医師達の様に(※注2)

第一次大戦中の1918年に起きたスペイン風邪(当時の新型インフルエンザパンデミック)では、全世界で約5億人(※注3)が感染し、1700万~5000万人が死亡。
我が国日本でも当時の人口約5600万人のうち約2300万人が感染し、少なくとも39万人が死亡したという現実がある。

今回の新型コロナウイルスの蔓延は、この過去に実際に起きたスペイン風邪の流行過程に類似した危機的経過を辿っていると言わざるを得ない。

おそらくこれから更に世界中で猛威をふるい人類に甚大な被害をもたらすであろうが、
しかし嵐はいつしか必ず過ぎ去る。

そしてその爪痕の痛みが強大であればあるほど、その悲しみが深ければ深いほど、
ある特定の国や組織や団体や人物に原因や責任や罪を押し付ける事の愚かさと虚しさを、私を含め世界中の多くの人々が真の切実さをもって反省し悟ることになるだろう。




※注1:1960年アルベール・カミュ(1913−1960)は、不慮の交通事故によって死去した
残された彼のカバンの中から、未完の自伝的小説「最初の人間」の遺稿が発見された、「最初の人間」は未完のまま1994年に刊行

※注2:小説「ペスト」の舞台=アルジェリアの港町オランにおいて、刻々と悪化する危機的状況に翻弄され葛藤しながらも誠実に職務を全うし感染病(ペスト)と闘う主人公(医師リウー)とその同士(協力者、助っ人)達

※注3:当時の世界人口:約18億~20億人

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