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2019年10月15日23:37

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『成長の限界・人類の選択』

序 論

私は芝居がかっているとは思われたくはないけれども、事務総長として私が承知している情報からつぎのような結論を下しうるのみである。すなわち、国際連合加盟諸国が、古くからの係争をさし控え、軍拡競争の抑制、人間環境の改善、人口爆発の回避、および開発努力に必要な力の供与をめざして世界的な協力を開始するために残された年月は、おそらくあと10年しかない。もしもこのような世界的な協力が今後10年間のうちに進展しないならば、私が指摘した問題は驚くべき程度にまで深刻化し、われわれの制御能力をこえるにいたるであろう。
                                       
                     国連事務総長 ウ・タント 1969年



私個人としては、現在我が国(他の先進国含)で一般的に重大問題とされている(一国単位内での)人口減少という事象は地球環境と生態系というマクロな視点からは大した問題ではないと思っている。
なぜならばそれよりも次元の違う深刻さをもって地球環境と生態系にインパクトを与え、現在進行形で急進し、なんら抑制され改善される見込がない事象が“世界の人口爆発”という本当の重大問題だからである。

冒頭の文章は、私がまだ十代の時に初読し衝撃を受け、その後も座右の書の一つとして影響を受け続けている「成長の限界」(※注1)というレポートの序論の序文である。

私が生まれたのはまさにこの序文に記された1969年であり、この時世界の人口は36億人程であった。そしてその半世紀後の現在の世界人口の数値がこのレポートの予測が精確に当っていた事を証明した。すなわち約75億人である。

このレポートではたった50年で世界の人口が2倍以上に膨れ上がると予測されており、
それが現実となったのである。30年後の2050年には世界人口は約100億人に達する。

           リアルタイム世界人口 http://arkot.com/jinkou/

紀元1世紀に約3億人だった世界人口は倍増するのに1700年かかった。
ところがそれがさらに倍増するのに要した時間はたった150年しかかからなかった。(※注2)、
そして1969年時の人口が倍増するのに要した時間は僅かに50年である。

この人口爆発=等比級数的増加のもたらす甚大な悪影響は、生態系としての地球環境のあらゆる重大問題の中で最も深刻かつその全ての諸問題(地球温暖化・気候変動含)に直結している。

但しある一部の最新レポートでは世界人口は110億人程度を上限として世界的に減少フェーズに入り、徐々にソフトランディングしていくという楽観的な予測もある。

スマホ普及により現在人口爆発している後進国や発展途上国への女子教育が進み、母親の育児の質の向上と教育熱等の認識が高まり、それに伴う少子化肯定意識によって出生率が急速に下がる、というなんとも御都合主義的で頼りない予測だ。

一方この人口減少化の可能性に対する予測は、既に50年前に「成長の限界」(第五章 均衡状態の世界)でも別な形で考察されており、人口減少フェーズへのソフトランディングを成功させるには、人口増加・生産拡大・消費増大という正のフィードバックループとそれを食い止める為の負のフィードバックループとを絶妙に均衡させて保ちつつ、徐々に人間活動全体としての需要とエネルギー消費を減らしていく必要があると述べられている。

これには根本的に人類がいわゆる成長神話から意識的にも実践的にも脱却し、競争を辞め、
私利私欲を捨て、分かち合いと分配の共存社会の実現というパラダイムシフトの大転換を成す必要がある事を意味する。

しかしこれも経済的、文化的、政治的に考えれば実現が困難と思わざるを得ない。
人々は自分の身が真に切迫した状況となるまでは、実際に自分自身が損を買ってまでして前もって決断し行動するまでには至らないであろう。

何れの場合においても様々な観点からみて世界人口は近い将来の臨界点から減少のフェーズに入ると予測されている。
そのきっかけの最も可能性が高いと思われるのが人類の繁栄によって不可避的に引き起こされる地球の自然環境の制御不可能な“破綻”によるハードランディングである。

そしてその破綻に伴う最終段階に起こる人間同士が自ら招く事変(紛争)としては、これは考えたくもない悪夢のようなおぞましい光景だが、理不尽な差別と奪い合いによる大量虐殺か世界最終戦争という修羅場の地獄絵巻であるように私にはどうしても思えてならないのである。



※注1:

1972年に民間シンクタンク=ローマ・クラブが発表したレポート(システムダイナミクス理論をもとにMITが当時の最新コンピューターを使用し科学的に予測検証した論文である。)
古典のアフォリズム(警句)を挿みながら読む人の知性に働き掛け、一般人にも分かりやすい比較的易しい文章で書かれているので単純に読み物としても優れていて読みごたえもある。
又1987年のブルントラント報告書よりも以前に、地球環境の“サスティナビリティ=持続可能性”を科学的に検証し問題提起したレポートである。

※注2:

 1760年代に始まった産業革命(あらゆる生産物の大量生産・医療技術の発達向上等)に
より、世界の人口増加は等比級数的増加(人口爆発)フェーズに突入したと考えられる。



※追記:

現代の一部の専門家が、この過去の有名レポートに書かれている石油資源の枯渇などの予測が外れた事から、このレポートの間違いの部分のみを抽出指摘し揚げ足をとり出鱈目だと批判している向きもあるが、「成長の限界」を実際に読めば分かる事だが、それら個々の予測が外れる可能性についても丁寧に触れられており、個々の予測が外れたとしても全体の予測の流れ「システムダイナミクス」としては何ら展望と警鐘の価値が下がるような事にはなっておらず、
その後改定された追加レポート「生きるための選択・限界を超えて」1992年、「成長の限界・人類の選択」2005年によっても、既に1980 年代には人類のエコロジカル・フットプリント(生態系に対する人間の需要量)が地球のバイオキャパシティ(生態系が供給できる扶養力)を超えてしまっている現状を示す等、重層的に予測検証を深めている。

地球環境の変動は、残念ながら今まさに現在進行形でこのレポートが危惧警鐘する深刻な事態へと突き進んでいる真っ最中にあると考えられる。



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