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2022年04月03日13:50

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ダロウェイ夫人

ヴァージニア・ウルフ

誰かの何かの評論で作家名と作品名を同時に知ったのだとは思うが、確かなことはわからない。本書は98年にこの作品を原作とする映画が公開されており、それにあわせる形で新訳されたもの。その映画は見ていないし、関係ないが「ヴァージニア・ウルフなんか怖くない」という映画は二組の夫婦がひどく口喧嘩するものだった(ウルフの名前だけ借りたものだそうだ)。「めぐり合う時間たち」では本書をベースにしてはいるが本書ほどわかりにくくはなかった。

わかりにくい。98年に読んだときはそう思った。意識の流れの描写だけで時間を進行させるのはジョイス「フィネガンズ・ウェイク」と同様らしいが(そっちも読んだことないし)、全体に構造らしい構造がなくまるで羊羹のよう。章立てしてメリハリをつけることもないし段落どころか節の途中で主語が変わったことに読者は気づかなければならない。確かに、こんな作品をものすることができるのは20世紀最高の女性作家なのかもしれない。

今回再読したのはこの作品がパンデミック文学として読めると聞いたから。時は1923年6月13日、場所はロンドン。一次大戦のあとということはスペインかぜ終息から間もない頃で、作者もインフルエンザを経験している。老年に差し掛かった夫人の朝から夜までの一日を軸に、登場人物たちのすれ違う思いが描写されるのだが、文章の端々でインフルエンザで体が弱った、亡くなったという話が見られる。主人公もインフルエンザにかかって後遺症で心臓が弱くなったことになっている。6月のロンドンは花が咲き緑も濃く瑞々しい生命力に溢れているが、それを感じ取れるのは死がすぐ近くにあるから。花火は消える前に最も輝く、みたいなものか。

読み直してみて前回よりも理解が増した気がする。巻頭にあるロンドン市街地の地図を参照したのと、短期集中で読めたのでいま誰の意識が描写されているのか分からなくなることが少なかったから。あとはパンデミックがわりと近くにあるからか。新型コロナでわたしの親族がふたり亡くなっている。とはいえ「いま死ねば、このうえなく幸福だろう」という気になりはしないが。
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