mixiユーザー(id:2463327)

2021年10月10日08:12

40 view

タウ・ゼロ

ポール・アンダースン

亜光速恒星間宇宙船の加速が止まらなくなったらどうなるかという相対論テーマのハードSF。タウとは時間経過の相対性を表すパラメータで√(1-(c^2)/(v^2))とされる。つまり速度vが光速cに近づくほどゼロに近くなり、それは光速に近い速度で進む宇宙船の内部の時間の進みが遅くなることを示す。本作では主観時間の5年でおとめ座ベータ星まで行けるとされる。

恒星間宇宙船の燃料をどうするかという問題に非現実的ながら答えを出したのが1960年、ロバート・バサードによる恒星間ラムジェットの論文。宇宙のビッグバンモデルを裏付ける背景輻射の発見が1965年。ここに乗っかった本作の原型の発表が1967年。さすがの慧眼。ビッグバンモデルが確からしいということになっても、この宇宙は膨張を続けるのか、膨張はいずれ止まるのか、あるいは収縮に向かうのかについては意見は割れた。ポール・アンダースンのとったのは振動する宇宙。本作の宇宙船は宇宙の終わりまで旅を続け、収縮して再爆発する宇宙を乗り切る。さすがにそれは無茶だろうとは思うが60年代のSFなので許す。

地球人類は滅ぶどころか太陽だって燃え尽きている。ビッグ・クランチのあと生まれ変わった宇宙で乗組員の25組のカップルによるサバイバル。ああこれは復活の日だ。アメリカ人が人類破滅/サバイバルをSFにするとこうなるんだ。センチメンタルなところはほとんどない。固い意志と力による統制。なお小松左京による復活の日の出版は1964年だった。

文庫の帯にはハードSFの金字塔と記される。でもなんだか楽しめない。主人公はその宇宙船の護衛官。危機に瀕してリーダーシップを発揮する姿はやや強引でとてもアメリカ人っぽい。もっと言えば共和党的。もう一人脇役でアメリカ人がいるのだがインテリで反抗的でよわよわしい。なんだか民主党的。本書が出版された92年に読んだときはそんなふうに思えなかったが、ポスト・トランプの21世紀だから人物描写が党派的に見えてしまって底の浅さを感じさせる。原著の発表は60年代だから60年代ハードSFのハード部分を愛でて、それ以外の部分は読み流すのが良いか。

あとがきで訳者が近頃の新人でテッド・チャンなんて知ってました?などと書いていた。時代はめぐる。
0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2021年10月>
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31      

最近の日記

もっと見る