一人暮らしの老人の部屋。
季節外れの団扇が、部屋の一等地に転がっている。
商店街か何処かで貰ったのだろうか。
老人の知らないタレントが印刷されていて、埃をかぶっている。
インスタントコーヒーをいれて、
夜のテレビでニュースを眺めても、
老人の分からない言葉が沢山流れて来る。
老人は分からないニュースを何となく眺めながら、
一人インスタントコーヒーを啜る。
部屋の隅っこ、年季の入った低い机。
その上に、小さな額に入れて置かれたモノクロ写真がある。
昭和のクルマの前に立つ、若い頃の老人とその妻。
まだ結婚前の、カップル時代の写真。
若い頃の老人、笑顔。
その笑顔は、分かる事に囲まれている笑顔だった。
分かっている世界の一員だった頃の、
輝いている笑顔だった。
そして西日の輝きの中、
老人の部屋には誰もいなかった。
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