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2020年01月15日23:23

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鏡の中のオバQ

鏡の中の静雄の顔は、オバQだった。

或る夜を境に、連日鏡の中の静雄の顔は、オバQなのだった。
大きな両目は埃が入り易く、充血している。
飢えたデカ口は深夜の過食を促す。
デップリした唇は・・・恐らく承認される事に飢えている。

静雄は何か、ここ最近の不調の謎が、
少し解けた様な気がしていた。

静雄は毎朝、ベッドから起き上がる時を恐れていた。
どうにか一日、社会性を発揮して活動するが、
早く夜になってしまって欲しかった。
しかし夜になればなったで一人、妙に神経が冴え渡り、
休まる感じは少なかった。

(何を恐れているのか・・・・・・
そうだ、相手に不安や戸惑いを与えてしまう、あの瞬間だ)

静雄の記憶は過去にまで及ぶ。
親兄弟から、クラスメイトから、先生から、
上司から、同僚から、友人から、かつての彼女から・・・・・・

時折、周囲から見れば意外過ぎたり、
奇行レベルに感じられる事を犯してしまった時、
相手の顔に浮かんで来る不安や戸惑いの表情、
返って来る困った様なリアクションや説教・・・・・・
その時は「嗚呼、やってしまった。気を付けよう」と思っても、
人生上、繰り返して来た行いの数々、
貰って来た、結構な量の、困り顔のリアクションや説教・・・・・・。

静雄は以前、或る人物から言われた事があった。
「静雄さんは面白いですね。アウトプットは礼儀正しく洗練されて、
柔和で穏やかな印象なのに、中身がカタギでない」

(その中身がこれだ。私は本当は・・・・・・オバQなのだ)

確かに静雄は、
「アウトプットは礼儀正しく洗練されて、柔和で穏やかな印象」の男だった。
だからこそ、時折出て来てしまう「オバQ」が、
相手に不安と戸惑いを与えてしまうのである。

相手は四六時中、静雄の事ばかり見張ってるわけでも、考えているわけでもない。
皆、自分自身の事で精一杯で、忙しい。
また、何事に対しても完璧な人間など存在もしない・・・・・・
静雄もアタマでは、そう考えられた。
しかし、「洗練されたアウトプット」を身につけているばかりに、
自分の「オバQ」が出て来てしまった時に、
相手に強めのインパクトを与えてしまう事・・・・・・
それが静雄の毎朝、日々、人生上に感じて来た、怯えの正体だった。

静雄は社会との繋がりを「洗練されたアウトプット」で必死に保ちながら、
正体である「オバQ」を閉じ込めて、隠して隠して、生きて来たし、
そうやって今も生きているのだ。
出来ない完封試合を常に己自身に課しながら・・・・・・。

そしてまた朝が来た。
静雄は、鏡の中のオバQを締め上げる様にネクタイを締めて、
Qちゃんみたいな声でゼェゼェ嘔吐きながら、表へ出た。





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