mixiユーザー(id:24566070)

2019年05月27日00:28

6599 view

櫛の力

ある女子大生が、こう言ったのです。

「ケルマさん、単刀直入に聞くけど、彼氏が浮気しないようにする方法ってないですか?」

実に単刀直入ですな。清々しいほどに。
私は、少し躊躇したのですがね。禁断のテクニックを話すことにしたのですよ。

「じつは、あるのだよ。このテクニックは、博愛主義の男たちによって、封印されてきたのだ!」

「なんですと!」

「君の清々しいまでの単刀直入さに心動かされたので、禁断のテクニックを教えるとしよう!なあに、簡単なテクニックなのだよ。彼氏に櫛を買ってもらうのだ。できたら、桃の木で作られた櫛が良いのだよ。そして、その櫛を愛用するのだ。これだけだよ」

「えっ!たったそれだけ?」

「うむ、生涯たった一人の女性しか奥さんにしなかったスサノオは、ヤマタノオロチ退治の時、後の奥さんとなるクシイナダヒメを櫛に変え、髪に飾って戦ったのだ。これは、共に死を分かち合うという覚悟でもあるのだよ」

「スサノオさん、かっこいい!私、ファンになっちゃいます」

「史上初の離婚をしたのは、イザナギとイザナミの夫婦神だが、もしかしたら、彼らが離婚した原因は櫛を折ったからかもしれないのだよ」

イザナギは、火の神を生んだ時に焼け死んでしまうのです。嘆き悲しんだイザナギは、イザナミを迎えに、黄泉の国に行って話しかけたのですよ。

「わが愛しの女神よ。私と君が作った国は、まだ作り終えてはいない。もう一度戻ってきておくれ」

イザナミは答えたのですな。

「私も、愛しいあなたと一緒にいたいのです。しかし、私は黄泉の国の食べ物を食べてしまいましたから、もとの世界に帰れないのです。これから黄泉の国の神に相談いたします。その間は、決してわたしの姿を見ないでください」

しかし、女神は御殿に入ったまま、なかなか出てこられなかったのですよ。イザナギは、しびれを切らして、左がわの髪に付けていた櫛の太い歯をひとつ折って、それに火をともして御殿へ入り、中を覗いたのですな。
するとそこには、世にも恐ろしい光景があったのです!女神の身体からは、たくさんのウジが湧き出ていて、身体中に雷神が跋扈していたのですな。
イザナギは驚いて、一目散に逃げ出したのです。イザナミは怒り狂いましたね。

「あなたは、わたしに恥をかかせましたね!」


・・・・・
「こんなふうに、櫛を折ったうえに火を灯しちゃったのが離婚の原因なのかもしれんのだよ」

「なるほど」

「櫛を折り火を灯すことで別れてしまう神話のエピソードは、他にもあるのだよ。トヨタマヒメのエピソードがそうだな」

トヨタマヒメは、海神の娘なのですよ。
ある日、出産が迫ったトヨタマヒメは、夫のホホデミノミコトにこう言ったのです。

「わたしは今夜出産します。出産の時は、本来の姿になります。 お願いですから、見ないでください」

ところが、ホホデミノミコトは願いを聞かず、折った櫛に火をつけて、出産の様子を見てしまったのですな。
するとそこには、巨大なサメの姿があったのでした。
本来の姿を見られて怒り狂ったトヨタマヒメは、故郷に帰ってしまったのです。

・・・・・

「なるほど、ケルマさん、わかりましたよ。櫛は重要なアイテムなんですね」

「うむ、ヤマトタケルのお妃であるオトタチバナさんも、櫛が重要なキーワードになっているのだ。
彼女は自分の命を、愛する夫を守るために海神に捧げたのだが、彼女の死後、海岸でオトタチバナの櫛が見つかるのだよ。ヤマトタケルは、その櫛を持って涙を流すのだね。
櫛は男女の絆を繋ぐ無意識の形(フォーム)なのだよ!」

「わかりました!ケルマさん!さっそく、彼氏に桃の木の櫛を買ってもらいます!Amazonで!」

「その意気だ!Amazonは、何でも買えるのだよっ!」
95 5

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2019年05月>
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031