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2021年02月26日20:29

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カーブルで生きる少女

今年もイスラーム映画祭が始まった。
始まったととたんにわずか一週間で一旦終わってしまったのは、都の緊急事態下で夜の上映ができないからだ。
削られた分は、4月以降に「延長戦」と銘打って上映されるそうなので、時々Twitterをチェックせねば。
https://twitter.com/islamicff

今年上映された映画は合計14本で、作品の舞台および制作国は、タイ、ドイツ、スーダン、インド、モロッコなど、南北アメリカをのぞいた広範囲にわたる。
いや、アフガニスタンからカナダに移住した作家の映画もあるから、ほとんど世界あまねく、と言ってもいいだろう。


『ミナは歩いてゆく』

アフガニスタンの首都カーブルで、昼は学校に通い、午後からは路上で物売りをして暮らしを立てている12歳の少女ミナ。
粗末な家には、ちょっと目を離すとトランクを抱えて「出かけて」しまう認知症の祖父がおり、ミナはそんな祖父の両足を縄で縛ってから学校へ向かわざるを得ない。
母はターリバーン時代に亡くなり、頼みの父親は麻薬におぼれ、ミナがせっかく貯めた生活費も、薬局で手に入れた祖父の薬も、どこかで使ってしまう。
昼となく夜となく家族の生活のために働くミナだが、それでもきちんと制服を身に着けて学校に通い、熱心に授業を聞き、美しいカリグラフィで作品を仕上げ、幼い物売りの子らの面倒を見、将来を思い描く。
そしてゴミ捨て場へ行ってぼろ布を拾い集め、鍋で煮て消毒したものを、母の形見の古い手回しミシンで縫い繕ってヘジャブに仕立て、縫製工場へ売り込みに行く。
私にもこんなものが縫えます、だからここで雇ってください!
もっときちんと縫えるようになったら来なさい、話はそこからだ。
工場主にはこのように体よく追い払われるが、ミナはあきらめない。

ある日、祖父が死んだ。
麻薬で人事不肖の父を見限り、なんとしてでも日のあるうちに祖父を埋葬するべく、ミナは周囲の大人たちの助けを求め、遺体を清めてもらい、ようやくモスクのイマームをつかまえて、ロバの引く荷台に祖父を載せて墓地へ運んでゆく。

父に麻薬を売りつけている男は、路上物売りの元締めでもあり、子供たちから売上金をいいように巻き上げている。
ミナは男に、自分が今以上に働くからもう父に麻薬を売らないでほしいと懇願するが、耳を貸す相手ではない。
彼女はとうとう、麻薬を詰め込んだ男の鞄を盗み出して隠すが、逆に脅され、仕方なしに鞄を回収にしゆくも、中身は何者かに持ち去られていた。
切羽詰まったミナは警察へ行き、男が自爆テロを計画していると嘘の密告をしてしまう。

ミナの偽証で男は警察に取り囲まれ、あげく射殺された。
その噂はあっという間に広まり、ミナはこれまでの縄張りで商売をすることはできなくなってしまった。
お父さん、もう麻薬は止めて。
私が明日から道端で物乞いをするから、お父さんも仕事を探して。

翌日。
ミナが学校から帰ると、家では7-8人の男が楽しそうにくつろいでいた。
上機嫌で父が言う。
ミナ、お客さんに食事を用意しなさい。
羊を一頭買っておいたから。
そんなお金、ないのに!と言いながら、大急ぎで支度をするミナ。
続いて食後のお茶を出していると、一番年輩の男を指して、父が言った。
ミナ、この方がね、ミナを嫁に欲しいそうだ。

お父さん!
私はお父さんと一緒に暮らせるなら、物乞いをしたって構わないのに!
それなのに、あんな年寄りに、私を売るなんて!

ミナは隠していたミシンを学校の教科書と一緒に祖父のトランクに入れて、家を走り出る。


このあと、ミナはどうしたか。

彼女はまず市場に寄ってミシンを売り、次いで学校へ行き、「もういらなくなったから、ほかの子にあげてください」と、決然とした表情で先生に教科書一式を渡す。
一体何があったの?私が力になってあげるから、という先生を振り切って駆けだすミナ。
そしてスラム街に入って、さっきミシンを売って得たお金でブルカを買う。

ブルカとは、全身をすっぽり隠し、目の部分だけが網状になっている成人女性の被り物のことだ。
その場でブルカを被ったミナは、日雇い物乞いの寄せ場を尋ねあて、同じようにブルカを被って偽物の赤ん坊を抱えた女たちと一緒に、手配師のワゴン車に乗りこむのだった——。


この映画は、カナダに移住した若いアフガン人監督が、カーブルの街で自らカメラを持って、わずか19日間で撮りあげたそうだ。
ちょうど選挙の投票が行われる時で、映画の中には、ミナが学校の先生にくっついて投票所へ行くシーンもある。
先生が投票所で「世の中を良くしてくれる人に投票しなきゃ」と言ったり、授業の中で「科学を学ぶことはとても大切です」と教えたりと、ここアフガニスタンでもまがりなりに民主主義が希求されており、また、テロリズムは絶対悪と認識されていることがわかる。
しかし、社会の現実はそうはゆかないのだ。
義務教育を施しながらも児童労働と搾取がまかり通っており、麻薬が人々を蝕み、貧困は解決困難な中、女性や子供の権利にまではまったく手が回っていない。
そんな現実の中で、どう生きてゆくか。

明るい緑灰色の瞳を持った12歳の少女ミナの、周囲の大人や男たちに昂然と歯向かいながら、全身で現実に立ち向かう姿。
彼女は、いつか敗れてしまうのか、それとも社会の中で自分の居場所を見つけることができるのか。
ブルカの中で、彼女は厳しいまなざしで、ファイティングポーズをとっているかのようだった。


商業上映の機会はおそらくほとんどなく、映画祭の主宰者がやみくもにグーグル検索をかけて監督のメールアドレスを探しあて、3時間後に返信があって上映が決まった、といういきさつがあったそうだ。
ほとんど自主映画のよう、と主宰者は語るが、どうしてどうして、意外なほど劇映画として完成度の高い作品であった。

ミナを演じたファルザナ・ナワビは、もちろんこうした映画の常でプロの俳優ではなかったが、劇中のミナと同じく反骨心あふれるガッツの持ち主だったようで、プロットだけを用意したゲリラ撮影の繰り返しの中で、主人公の人物造形に大きく影響をしたであろうことは容易に想像された。



『ミナは歩いてゆく/Mina Walking』
★日本初公開
2015年 アフガニスタン=カナダ
監督:ユセフ・バラキ
言語:ダリ語


※後日、Twitterで拾ったオフショット。みんないい笑顔だ。
フォト


イスラーム映画祭3 『ラジオのリクエスト』(シリア)
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イスラーム映画祭3 『トゥルー・ヌーン』(タジキスタン)
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イスラーム映画祭4 『僕たちのキックオフ』 (イラク)
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イスラーム映画祭4 『二番目の妻』 (オーストリア)
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イスラーム映画祭5 『アル・リサーラ』
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イスラーム映画祭5 『神に誓って』(パキスタン)
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