過去何度となく映画の題材となっている伝説のギャング、その最晩年を描く。長い服役を終えたアル・カポネ(トム・ハーディ)は、陽光きらめくフロリダの大邸宅で、家族に囲まれ余生(といっても年齢を聞くと驚くが)を過ごしている。ただしその身体は業病に蝕まれ、意識不明瞭のまま嘔吐や失禁そして奇行を重ねる日々が続いている。
なんといってもメイクも入念なトム・ハーディのなりきりぶりに注目。現実と悪夢のあいだをさまよう日々、認知症という言葉も軽く思える狂気に満ちたふるまい。いったいいま彼は何を考えているのか、そしていまから何をしようとしているのか、しばらく静寂が続くこの瞬間、彼が見せる戦慄の目つきにもっとも怖いものを感じた。
膨大な隠し財産の行方を追うFBIという一応の筋立てがあるも、ほとんどが現実と妄想を行き来する不条理な描写に終始する、まさにカポネ作品応用編。もしカポネ研究者なる人物がこの作品を観たとすれば、よくこの時期を取り上げてくれたと全肯定するか、あるいはこんなのは作り手の妄想に過ぎないと全否定するかの両極だろう。
マット・ディロンやカイル・マクラクランといった連中が脇を固めていて何やら懐かしい思い。しかも「まだまだオレたち元気だぜ」的な役柄で登場するのが嬉しい。狂気とカオスに満ちたクライマックスシーンも凄まじく、哀しさと憐れみそして何やら切ない気持ちにも包まれることまちがいなしのヘヴィーな作品だと思います。
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