「空に住む」〜夢の空間、リアルな毎日

多部未華子主演の現代女性模様。両親を事故でなくし叔父夫婦の計らいで都心のタワーマンションで暮らしはじめた出版社勤務の直美（多部）。愛猫ハルだけが喪失感を癒やしてくれる日々のなか、ある日偶然エレベーターで出逢ったのは同じマンションの住人、超人気スターの時戸森則（岩田剛典）だった。監督は青山真治、原作は小竹正人の小説。

生活感のまったくない高級タワーマンション、超人気スターとの出逢い、編集者という女性憧れの職業…誰が見てもクサすぎる現代のおとぎ話。ただし対比させるべく設定された出版社は、大学文化系部活の合宿か何かと思わせる、都心から小一時間かかる郊外の木造一軒家。このユニークな対比が物語全体を面白く深みのあるものにしている。

いや、それ以上にこの作品を単なるキラキラムービーで終わらせていないのは、現実と夢のはざまで揺れ動く独身女性を巧みに演じた、多部未華子の見事な表現力。いまの若手女優ではやっぱり抜きん出た存在では。そしてセレブ感あふれる美村里江（元ミムラ）の美しさにも脱帽。さらに直美の心境風景を映す合わせ鏡、黒猫ハルの好演にも拍手。

脇に柄本明・永瀬正敏・大森南朋というところを配しながら、それぞれわずかずつしか登場せず、その渋いふるまいをもっと観たくなる贅沢なキャスティング。あとデヴィッド・ボウイ好きの心をくすぐることがひとつ、思わずニヤリとしてたらセリフのなかにも彼の名が登場。まちがいなく制作側の誰かにボウイファンがいるにちがいない。