全部で5曲のミニアルバムはダニエル・タシアンとのコラボ名義。プロデュースを委ね、すべての楽曲の作詞とボーカルもお願いしているのだから、タシアンのソロアルバム全曲の作曲をバカラックが請け負ったかと皮肉れないこともない。ところが1曲目のイントロが流れたとたん、そんなことはどうでもよくなってくる。
これぞまごうかたなきバカラック節。たしかにどこかで聴いたことある感はそこかしこ。それでもこの甘美な旋律に身を委ねるひとときはこのうえない幸せ。5曲すべてが同じようなしっとりムード、秋深まるいまの季節にこそ聴くべきトータル18分(ちなみに月末発売の国内盤は7曲入り)、しばらくは夜長のお供になること間違いなし。
楽曲のクオリティうんぬんよりも、ことし92歳、ウチの父親より1歳年上のバカラック御大が、ナッシュヴィルのスタジオに籠ってレコーディングを続けたという事実に感銘を受けてしまう。もうそこに存在しているだけで十分な“人間世界遺産”、まあ言ってみれば晩年の米朝師匠の高座みたいなものです。
やがてコロナ禍を振り返ったとき、個人的にもっとも残念だったことといえば、まちがいなく4月の御大ビルボードライブ公演中止。最前列ピアノ前の座席を確保していたのに…。果たして再来日は実現するかどうか。年齢との闘いは正直厳しいけれど、その日が来ることを願いつつ、この15年ぶり新譜をくりかえし聴くことにします。
ログインしてコメントを確認・投稿する