「スパイの妻」〜戦時下の夫婦愛、光と影

蒼井優と高橋一生共演、太平洋戦争の荒波にほんろうされる夫婦の物語。もともとはNHK-BS8Kで放映されたドラマを再構築したもの。欧州では現代における秀でた日本映画の作り手を、是枝・河瀬・北野とともに“4K“とくくられる黒沢清が監督。ベネチア国際映画祭コンペティション部門で最優秀監督賞受賞。オリジナル脚本。

NHKの最新技術とか8K用とか、テクニカルな部分はわからないけれど、黒沢作品の特徴というべき光と影のコントラストがとにかく印象的。暗闇にまぶしい光がいきなり差しこむシーンが何度となくあり、夫優作(高橋一生)ののっぺりした顔に横から光が当たってできる陰影は、この作品のミステリアスな部分を象徴しているような。

物語前半はミステリー&サスペンス的な要素が強く、事の真相を知りたく思う観る側をぐいぐいと引きつけていくけれど、後半になるや戦時下でままならない夫婦愛のありかたが前面に。それにつれて妻聡子(蒼井優)の存在感がぐっと増してくる。いや終盤はほとんど彼女の独壇場、蒼井優の見事な表現力に唸らされることになる。

ほとんど話題にならなかったけど、今年の初めこのふたりはタナダユキ監督「ロマンスドール」でも共演。表情に起伏がなく、何を考えているかわからない男を演じさせたら絶品の高橋一生と、感情のアップダウンを表現させたら随一の蒼井優、これからもふたりは個性的なカップルを演じて、秀作を数多く世に送りこむに違いない。